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膵臓がん細胞における上皮間葉転換の不均一性には、キナーゼERKが保存的に主要な役割を果たしている
The kinase ERK plays a conserved dominant role in the heterogeneity of epithelial-mesenchymal transition in pancreatic cancer cells
SCIENCE SIGNALING
12 Aug 2025 Vol 18, Issue 899
DOI: 10.1126/scisignal.ads7002
Michelle C. Barbeau1, Brooke A. Brown2, Sara J. Adair3, Todd W. Bauer3, Matthew J. Lazzara2, 4, *
- 1 Department of Pathology, University of Virginia, Charlottesville, VA 22903, USA.
- 2 Department of Chemical Engineering, University of Virginia, Charlottesville, VA 22903, USA.
- 3 Department of Surgery, University of Virginia, Charlottesville, VA 22903, USA.
- 4 Department of Biomedical Engineering, University of Virginia, Charlottesville, VA 22903, USA.
- * Corresponding author. Email: mlazzara@virginia.edu
Editor's summary
上皮間葉転換(EMT)は薬剤耐性を誘導するプロセスであり、腫瘍内でも悪性細胞間で一様ではない。Barbeauらは相互情報量の計算を用いて、膵管腺がん(PDAC)細胞および腫瘍の単一細胞イメージング解析で得られたシグナル伝達活性とEMTマーカー強度の相関を明らかにした。これらの計算から、EMTを誘導する増殖因子または化学療法薬に対する反応のEMTの不均一性は、主にキナーゼERK活性の変動により引き起こされること、さらに、ERK活性が阻害された場合の反応の不均一性は、関連するキナーゼJNKの活性の変動により引き起こされることが明らかにされた。これらの知見は、相互情報量の計算に他のシグナル伝達分子を含めたときにも堅牢であり、多くの生化学的アプローチまたはその他の数学的アプローチでは解明されないものであった。以上のように、PDAC治療にERK阻害薬を併用することでEMT誘導性の化学療法抵抗性を最小限に抑えることができるかもしれない。—Wei Wong
要約
がん細胞では上皮間葉転換(EMT)が不均一に生じて化学療法抵抗性が促進される。関係するシグナル伝達経路を特定すれば、化学療法への反応性を促進する併用薬を突き止められるが、細胞集団レベルの研究では誤解を招く可能性があり、また、単一細胞トランスクリプトミクスでは間接的なオントロジーベースの推測が得られるに過ぎない。そこでわれわれは、シグナル伝達タンパク質レベルでのEMTの不均一性を理解するために、膵臓がん細胞および腫瘍の反復間接免疫蛍光イメージングと、相互情報量(MI)解析とを組合せて検討した。まず、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路に注目したMI解析では、細胞間のERK活性の変動が、様々な増殖因子および化学療法薬に対する反応のEMTの不均一性を決定するが、MEKが阻害されたときにはJNKがその阻害を補償することが示された。集団レベルモデルでは、このように実験的に確認されたMIの推測結果を得られなかった。解析を拡大して7つの潜在的なEMT調節性シグナルノードを含めたときにも、MIからはERKの主要な役割が一貫して示された。より一般化すると、本研究は、多変量のシグナル伝達と表現型の関係を、タンパク質の測定に基づいてあらゆる状況で検討するアプローチを提供する。