がん
転移を促す圧力

Cancer
Pressured to Metastasize

Editor's Choice

Sci. Signal., 16 April 2013
Vol. 6, Issue 271, p. ec83
[DOI: 10.1126/scisignal.2004246]

Annalisa M. VanHook

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

L. Li, D. Hanahan, Hijacking the neuronal NMDAR signaling circuit to promote tumor growth and invasion. Cell 153, 86-100 (2013). [PubMed]

中枢神経系において、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)は、学習と記憶に重要な役割を果たす。機能性NMDARは、多様なヒト腫瘍に存在し、NMDAR作動薬のグルタミン酸は、がんの増殖と進行に関連づけられている。膵神経内分泌腫瘍(PNET)の浸潤に関与すると考えられるものとしてNMDARを事前に同定していたため、LiとHanahanは、PNET生物学におけるこの受容体の役割を調べた。NMDARのNR1サブユニットとNR2bサブユニットはいずれも、PNET、膵管腺がん、乳がんのマウスモデル由来の腫瘍に存在し、NR2bはとくに腫瘍の浸潤前線に高頻度にみられた。小胞グルタミン酸輸送体(vGlut)は、グルタミン酸分泌に必要であり、PNET細胞に存在した。NR2bは、いくつかの種類のヒト腫瘍で発現され、患者の予後不良はNR2bvGlut2の存在量が多いことと相関した。培養されたマウスPNET細胞のβTC-3株は、従来のトランスウェル遊走アッセイでは弱い浸潤性しか示さなかったが、in vivoの間質液圧を模倣して静水圧をかけると、より強い浸潤性を示した。拮抗薬のMK801を用いてNMDARを阻害すると、(i)静水圧を組み入れた改変型in vitro浸潤アッセイにおいてβTC-3細胞の浸潤が遮断され、(ii)静置培養条件下でのβTC-3細胞の増殖と生存が減少し、(iii)in vitroでの多様なヒトNR2b陽性腫瘍細胞株の浸潤が阻害され、(iv)マウスPNETモデルの腫瘍量が減少した。静水圧流動の条件下では、βTC-3細胞培養液中に存在するグルタミン酸量が増加したことから、流動がグルタミン酸の分泌を促進したことが示唆されており、これらの細胞内で自己分泌シグナルとして作用した可能性がある。また、流動は、静的条件下の細胞と比べて、βTC-3細胞でNMDARの表面局在化を亢進し、NMDARの下流のCa2+/カルモジュリンキナーゼ(CaMK)とマイトジェン活性化または細胞外シグナル制御プロテインキナーゼ-マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK-MAPK)シグナル伝達経路の活性化を引き起こした。これらの結果は、in vivoで静水圧が一部のがん細胞のグルタミン酸分泌を誘発しているかもしれないことを示唆しており、これが、自己分泌という形で、腫瘍細胞の増殖と浸潤を促進するNMDAR下流のシグナル経路を活性化するために作用する可能性がある。

A. M. VanHook, Pressured to Metastasize. Sci. Signal. 6, ec83 (2013).

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