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構造生物学
ナトリウム不在下での偏向

Structural Biology
Biased in the Absence of Sodium

Editor's Choice

Sci. Signal., 18 February 2014
Vol. 7, Issue 313, p. ec45
[DOI: 10.1126/scisignal.2005184]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

G. Fenalti, P. M. Giguere, V. Katritch, X.-P. Huang, A. A. Thompson, V. Cherezov, B. L. Roth, R. C. Stevens, Molecular control of δ-opioid receptor signalling. Nature 506, 191–196 (2014). [PubMed]

Gタンパク質共役受容体(GPCR)などの膜結合型受容体を研究するためにX線結晶構造解析技術を応用すれば、受容体制御の分子的および原子的機構を明らかにすることができ、高度に特異的な治療学の開発に役立ちうる。ナトリウムイオンは、オピオイド受容体(OR)のリガンド結合能をアロステリックに調節する。Fenaltiらは、アンタゴニストであるナルトリンドールと複合体を形成したδオピオイド受容体(δ-OR)を結晶化し、ナトリウムイオンが細胞内ループ3(ILC3)の閉構造を安定化させることを明らかにした。このナトリウムイオンに依存した立体構造は、他のクラスのオピオイド受容体でも保存されている残基によって仲介されていたが、他のファミリーに属するGPCRのILC3の閉構造を安定化させる別の機構とは異なっていた。ナトリウムイオンの配位によって、アロステリックなナトリウム結合部位からオルソステリックリガンド結合部位までの分子結合が確立されており、生理学的濃度のNaClの存在下で一部のリガンドの結合性が変化する理由もこれで説明がついた。加えて、ナトリウムイオンと8つの会合水分子がヘリックス内の広範な水素結合相互作用を確立しており、受容体の活性化に影響しうる。ナトリウムイオンの機能上の効果を調べるために、異種発現されたナトリウム配位性の点変異体を、Gタンパク質シグナル伝達経路またはβ-アレスチンシグナル伝達経路のいずれか一方との共役能について、またはリガンド結合について評価した。Asn131の変異によって産生される受容体では、β-アレスチン経路とのリガンド非依存性の共役能も、エンケファリンアゴニストDADLEとの結合能も高まっていた。N131V変異体では、ナトリウムが及ぼす効果は野生型受容体の場合に比べて低下していたが、Gαiとの共役は、低下したとはいえ、いくらかみられた。一方、N131A変異体はナトリウムに対して非感受性であり、Gαiシグナル伝達を刺激しなかった。ナトリウム結合部位内の別の残基であるAsp95の変異も、リガンド結合に対するナトリウムの効果を消失させ、明らかなアンタゴニストを、β-アレスチン経路と共役するアゴニストへと転換させた。このように、結晶構造によって、ナトリウムイオンがリガンド結合性だけでなく共役の有効性にも影響する機構が明らかにされ、機能的に偏向のある薬物を開発するうえで役立つ可能性がある。

N. R. Gough, Biased in the Absence of Sodium. Sci. Signal. 7, ec45 (2014).

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2014年2月18日号

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