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発生神経科学
二重作用をもつ疼痛調節因子

Developmental Neuroscience
Dual Action Pain Modulator

Editor's Choice

Sci. Signal., 20 May 2014
Vol. 7, Issue 326, p. ec131
[DOI: 10.1126/scisignal.2005497]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005 USA

M. A. Wheeler, D. L. Heffner, S. Kim, S. M. Espy, A. J. Spano, C. L. Cleland, C. D. Deppmann, TNF-α/TNFR1 signaling is required for the development and function of primary nociceptors. Neuron 82, 587–602 (2014). [PubMed]

特定のクラスの侵害受容性ニューロンは、損傷組織により放出される疼痛誘発性化学物質、熱、冷却または圧迫などの多様な種類の有痛性刺激に応答する。最初、ペプチド作動性および非ペプチド作動性の侵害受容性ニューロンの前駆細胞が発生するためには、その受容体であるTrkAを刺激する神経成長因子(NGF)が必要である。その後、ペプチド作動性の侵害受容性ニューロンが適切な標的に神経支配できるか否かはNGF-TrkAに依存し、一方で非ペプチド作動性の侵害受容性ニューロンのそれは、グリア由来神経栄養因子(GNDF)ファミリーメンバーであるニュールツリンとその受容体Retに依存している。Wheelerらは胚の後根神経節(DRG)中にある腫瘍壊死因子(TNF)受容体(TNFR)ファミリーの、全23のメンバーに関するmRNA存在量を検討した。その結果、TNFR1と、NGF-TrkAシグナル伝達の阻害因子であるp75NTRの転写物の存在量が多いことを検出した。免疫組織化学的検査により、ペプチド作動性と非ペプチド作動性の両方の侵害受容性ニューロンのマーカーとTNFR1が共局在化していることが確認され、DRG、表皮および脊髄の感覚神経上にTNFR1リガンドであるTNF-αが存在していることが示唆された。TNF-αまたはTNFR1を遺伝的に欠損させたマウス(Tnf/–またはTnfr1/–)では、皮膚の侵害受容性線維の密度が高く、熱および機械刺激に対して高感受性であり、このことは痛覚閾値が低下していることを示唆していた。予想外なことに、この変異マウスでは生後0日(P0)におけるTrk陽性侵害受容性ニューロンは比較的少なく、生後14日(P14)と30日(P30)で多かった。このことは侵害受容性ニューロンの分化が変化したことを示唆している。たしかにP0の変異マウスのDRGでは、RetとTrkAが二重陽性の前駆侵害受容性ニューロンが高い割合で認められたが、P14およびP30では侵害受容性ニューロンの割合が高いのみであった。しかし、Tnf/–またはTnfr1/–マウスでは野生型マウスと比較し、脊髄におけるペプチド作動性ニューロンからの投射は多く、非ペプチド作動性ニューロンからの投射は少なかった。さらに、野生型マウスから分離した感覚ニューロンまたはDRG外植片は、TNF-α存在下に比べTNF-αを外因性に添加しなかった場合、NGFが介する神経突起の伸長が速かった。Tnf/–またはTnfr1/–マウスからのDRG外植片ではNGFに応答した伸長の促進が示され、このことは、NGFが介する神経突起の伸長をTNFR1シグナル伝達が阻害することを示唆していた。対照的に、Tnf/–またはTnfr1/–マウスはニュールツリンに応答した伸長の低下を示し、このことはTNF-α-TNFR1シグナル伝達がこの伸長に促進的な役割を果たしていることを示唆していた。Tnfr1/–マウスのDRG外植片で認められたニュールツリン刺激性の神経突起の伸長の低下は、可溶性TNFR1の添加によって回復したが、Tnf/–マウスからの外植片では、TNF-αの添加によっても伸長は回復されなかった。このことは、このような神経突起の伸長の促進を介しているものは、TNFR1からTNF-αへの「逆行性の」シグナル伝達であり、TNF-αからTNFR1への「順行性の」シグナル伝達ではないことを示唆していた。カルシウム画像検査から、Tnf/–またはTnfr1/–マウスから分離したペプチド作動性侵害受容性ニューロンは野生型マウスから分離したものに比べ、疼痛関連性のTRPチャネルを活性化するリガンドに対して高い興奮性を示し、一方で変異マウスの非ペプチド作動性侵害受容性ニューロンは、ATPまたはTRPリガンドに対して反応性が低いことが明らかとなった。このように、TNF-α-TNFR1シグナル伝達は、TrkA陽性ペプチド作動性侵害受容性ニューロンの伸長と興奮性を抑制し、Ret陽性非ペプチド作動性侵害受容性ニューロンの伸長と興奮性を亢進するという、相反する役割を果たしている。

N. R. Gough, Dual Action Pain Modulator. Sci. Signal. 7, ec131 (2014).

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2014年5月20日号

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