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神経科学
睡眠の癒しの力
Neuroscience
The Healing Power of Sleep
Sci. Signal., 28 October 2014
Vol. 7, Issue 349, p. ec299
DOI: 10.1126/scisignal.aaa1491
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. J. Hill, R. Mansfield, J. M. N. G. Lopez, D. M. Raizen, C. Van Buskirk, Cellular stress induces a protective sleep-like state in C. elegans. Curr. Biol. 24, 2399-2405 (2014). [PubMed]
M. D. Nelson, K. H. Lee, M. A. Churgin, A. J. Hill, C. Van Buskirk, C. Fang-Yen, D. M. Raizen, FMRFamide-like FLP-13 neuropeptides promote quiescence following heat stress in Caenorhabditis elegans. Curr. Biol. 24, 2406-2410 (2014). [PubMed]
要約 睡眠には元気を回復させる力がある。Hillらの研究とNelsonらの研究において、線虫が細胞ストレスから回復するためには、睡眠が重要であることが示されている。Hillらは、侵害性の熱または冷刺激、エタノール、あるいは高浸透圧ストレスにさらされた線虫(Caenorhabditis elegans)が、摂食をやめ、自発運動活性を低下させたことを報告している。侵害刺激を除去すると、動物は一時的に睡眠様状態に入り、さらに行動が静止し、感覚刺激に応答しなくなった後に、正常な活動に戻った。ALAニューロンを欠損した動物は、ストレス刺激の除去後に、この睡眠様状態に入らなかった。上皮成長因子(EGF)は、脊椎動物の睡眠誘導に関与するとされており、C. elegansにEGFホモログlin-3を過剰発現させると、ALAニューロンにおいてEGF受容体LET-23とEGF経路のメディエーターであるホスホリパーゼC-γ(PLC-γ)を必要とする形で、行動静止が誘導される。野生型線虫と比較して、LIN-3、LET-23、PLC-γのいずれかが減少した線虫では、熱ストレスからの回復時の静止状態が少なかった。ストレス応答性転写因子HSF-1またはDAF-16、あるいはシャペロンHSP-4を欠損した線虫では、熱ストレス後に、野生型線虫よりも長時間、行動静止状態が持続し、ALAニューロンまたはPLC-γを欠損した線虫では、極度の熱ストレス後の生存率が低下した。Nelsonらは、ALAニューロンにヒスタミン作動性塩素イオンチャネルを発現させてこの細胞を抑制すると、ヒスタミン存在下でストレス後の行動静止が抑制されたことから、ストレス誘導性の行動静止にはALAニューロンの脱分極が必要であることを見出した。ALAに光活性化陽イオンチャネルを発現させてこのニューロンを脱分極させると、行動静止が誘導された。ALAニューロンは、FMRFアミドに関連する神経ペプチドをコードするflp-13を発現し、熱ショックはflp-13の発現を増加させた。ALAニューロンにおいて、熱ストレス後の行動静止にはFLP-13が必要であり、flp-13変異体では、lin-3過剰発現に応答した静止状態が減少した。最後に、flp-13を過剰発現した動物では、軽度の熱ストレス後に、野生型動物よりも多くの行動が静止した。咽頭に存在する細胞膜係留型のLIN-3は、タンパク分解性に切断され、活性EGFドメインを放出することができる。著者らは、熱ストレスがLIN-3の切断と放出を誘導し、LIN-3がALAニューロンのLET-23を活性化させ、脱分極とFLP-13の放出を引き起こし、FLP-13が静止状態を誘導するという仮説を立てている。これらの結果からは、睡眠が、細胞ストレスからの回復を可能にする保護機能を果たすことが確認されるだけでなく、細胞ストレスが可逆的に睡眠を誘導する機構も示唆されている。
A. M. VanHook, The Healing Power of Sleep. Sci. Signal. 7, ec299 (2014).