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発生神経科学
低酸素症、ミエリンと新生児の脳
Developmental Neuroscience
Hypoxia, myelin, and the neonatal brain
Sci. Signal., 5 May 2015
Vol. 8, Issue 375, p. ec115
DOI: 10.1126/scisignal.aac4841
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
M. Zonouzi, J. Scafidi, P. Li, B. McEllin, J. Edwards, J. L. Dupree, L. Harvey, D. Sun, C. A. Hübner, S. G. Cull-Candy, M. Farrant, V. Gallo, GABAergic regulation of cerebellar NG2 cell development is altered in perinatal white matter injury. Nat. Neurosci. 18, 674-682 (2015). [PubMed]
早産児では呼吸機能の異常により、オリゴデンドロサイト前駆細胞であるNG2細胞数の減少、ならびに成熟したオリゴデンドロサイトが生成する保護的で絶縁性の髄鞘形成の低下を特徴とする、神経発達障害が生じる危険性がある。Zonouziらは、慢性新生児低酸素症の影響を検討するため、NG2細胞中およびNG2細胞由来細胞中で赤色蛍光タンパク質を発現しているマウス(NG2DsRedマウス)を用いた。低酸素チャンバー内で飼育した新生仔マウスの小脳切片の解析から、小脳の萎縮と構造変化が示された。さらにこの小脳では、プルキンエ細胞[神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)に応答してこれを放出する小脳ニューロン]の樹状突起の分枝が減少し、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)の存在量が減少していた。特異的マーカーの共焦点顕微鏡解析から、低酸素状態の新生仔NG2DsRedマウスでは対照マウスに比較し、小脳白質中のNG2細胞の存在量は増加し増殖が亢進しているが、成熟オリゴデンドロサイトの存在量は減少していることが明らかにされた。しかし、出生後60日目にはマーカーの存在量に差は認められず、低酸素症がオリゴデンドロサイトの成熟を遅らせることを示唆していた。GABA入力はNG2細胞において抑制性シナプス後電流(IPSC)を誘発し、それによりその増殖を制限して分化を促進している。プルキンエ細胞および介在ニューロンは、このようなGABA作動性入力の発生源である可能性がある。切片の電位記録および共焦点顕微鏡解析から、低酸素状態のマウスではプルキンエ細胞の発火頻度が低下し、介在ニューロン数が減少していることが示された。ホールセル記録から、新生仔マウスではGABAA受容体が存在するものの、低酸素状態により自発性IPSCを示すNG2細胞数が減少することが示された。このことは、GABA作動性入力が減少していることを示唆している。対照のNG2DsRedマウスにおいて、GABAA受容体アンタゴニストであるビククリンにより処理したとき、またはGABAシグナル伝達が発生初期には脱分極、後期には過分極を誘導するようにCl-勾配を設定するNa+-K+-Cl+共輸送体であるNKCC1をN2特異的にノックアウトしたとき、NG2細胞の数が増加し増殖が亢進して、成熟オリゴデンドロサイト数を減少させた。対照的に、チアガビンまたはビガバトリンという薬物によるGABA供給量の増加は逆の作用をもち、GABAA受容体アゴニストのムシモールはNG2細胞の増殖を低下させた。新生仔マウスを低酸素状態に曝露させた後、チアガビンまたはビガバトリンを数日間投与したとき、低酸素症の影響は改善し、小脳中のMBP存在量が増加した。これらの所見は、新生児の小脳ではGABA作動性シグナル伝達を刺激することで、低酸素状態により引き起こされるミエリン形成の遅延を予防できることを示唆している。
L. K. Ferrarelli, Hypoxia, myelin, and the neonatal brain. Sci. Signal. 8, ec115 (2015).