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がん免疫療法
腫瘍とT細胞のあいだにみられる代謝競合

CANCER IMMUNOTHERAPY
Metabolic competition between tumors and T cells

Editor's Choice

Sci. Signal. 06 Oct 2015:
Vol. 8, Issue 397, pp. ec281
DOI: 10.1126/scisignal.aad5685

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

P.-C. Ho, J. D. Bihuniak, A. N. Macintyre, M. Staron, X. Liu, R. Amezquita, Y.-C. Tsui, G. Cui, G. Micevic, J. C. Perales, S. H. Kleinstein, E. D. Abel, K. L. Insogna, S. Feske, J. W. Locasale, M. W. Bosenberg, J. C. Rathmell, S. M. Kaech, Phosphoenolpyruvate is a metabolic checkpoint of anti-tumor T cell responses. Cell 162, 1217–1228 (2015). [PubMed]

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がん細胞は、T細胞の持続的な機能障害(疲弊と呼ばれる状態)を引き起こしたり、T細胞の機能を阻害する免疫チェックポイント[リガンドPD-L1と結合する受容体であるプログラム細胞死タンパク質1(PD1)など]を活性化させたりすることによって、免疫系から逃れることができる。今回、腫瘍の好気的解糖によって微小環境のグルコース不足が引き起こされ、活性化されるときに好気的解凍系に依存するT細胞の疲弊の原因になることを、3本の論文が明らかにしている。さらに、PD-L1とPD-1はT細胞の機能を抑制するだけでなく、がん細胞の好気的解糖を亢進させた。メラノーマ細胞から形成された腫瘍を有するマウスで、Hoらは、腫瘍間質液中のグルコース濃度が低下していること、腫瘍内のCD4+ T細胞は脾臓内のCD4+ T細胞よりもグルコースを取り込む量が少ないことに注目した。脾臓または流入領域リンパ節由来のCD4+ T細胞と比べて、腫瘍内では、T細胞の活性化にとって重要なCD40のリガンド(CD40L)と炎症性サイトカインであり抗がん性サイトカインでもあるインターフェロンγ(IFN-γ)を産生するT細胞の割合が低かった。解糖系酵素ヘキソキナーゼ2(HK2)を過剰発現するメラノーマ細胞を移植されたマウスでは、対照メラノーマ細胞を移植されたマウスに比べて、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)で産生されるCD40LとIFN-γの量が少なった。さらに、Rag1ノックアウトマウス(成熟T細胞、成熟B細胞を産生しない)に生着していたCD4+ T細胞によって、対照メラノーマ細胞の増殖は減少したが、HK2を過剰発現するメラノーマ細胞の増殖は減少しなかった。T細胞受容体(TCR)を刺激すると、Ca2+シグナル伝達が引き起こされ、転写因子NFATのサイトゾルから核内への再局在化が促進され、T細胞の活性化に必要とされる遺伝子が転写的に活性化される。低グルコース状態下でTヘルパー1(TH1)細胞のTCRが刺激されると、細胞内Ca2+濃度が低下し、NFATの核内への移行が減少する。小胞体局在型Ca2+ ATPアーゼであるSERCAを阻害すると、グルコースの欠乏したT細胞でNFATの核移行が回復した。解糖系代謝産物のホスホエノールピルビン酸(PEP)は、SERCAのシステイン残基の酸化に依存すると思われる機構を通じて、Jurkat細胞由来の小胞体のCa2+取り込みを阻害した。ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)はPEPを産生する。CD4+ T細胞でPCK1を過剰発現させると、グルコースの欠乏によって引き起こされたCa2+流動とNFATの核移行の減少が妨げられた。メラノーマを移植され、メラノーマ抗原を認識するように遺伝子操作されたCD4+ T細胞を注射されたマウスでは、T細胞でPCK1を過剰発現させるとCD40LとIFN-γの産生量が増加し、エフェクター機能が向上し、腫瘍の増殖が抑制された。2本目の論文では、Changらは、TILによって産生されるIFN-γを必要とする形で主要な拒絶抗原を有する腫瘍(R腫瘍)が消失するモデルを用いた。この拒絶抗原を有さない腫瘍(P腫瘍)は消失しない。T細胞のみで培養された場合に比べて、R腫瘍と一緒に培養された場合にはT細胞によって産生されるIFN-γの量は減少し、P腫瘍細胞と一緒に培養された場合にIFN-γ量はもっとも少なくなったが、このような作用はグルコースを添加すると解消された。好気的解糖の反応速度は、P腫瘍細胞のほうがR腫瘍細胞よりも速かったが、P腫瘍由来のTILの好気的解糖の反応速度がもっとも遅かった。キナーゼ含有mTORC1タンパク質複合体は、栄養状態に応じて、細胞の成長と増殖を支える同化過程を調節する。P腫瘍由来のTILでは、R腫瘍由来のTILに比べて、mTORC1の2つの標的のリン酸化が減少していた。この作用は、グルコースの供給状態に基づいてより制限的に作用するP腫瘍で代謝が亢進されたことと一致している。抗PD-1抗体または抗PD-L1阻害抗体など、チェックポイント阻害療法で処置されたマウス由来のP腫瘍では細胞外のグルコース濃度が上昇しており、これらのマウス由来のTILでは、解糖反応速度、mTORC1標的のリン酸化、IFN-γ産生が亢進されていた。培養されたP腫瘍細胞では、PD-L1阻害やPD-1に対するRNA干渉によって、解糖反応速度、グルコースの取り込み、mTORC1標的のリン酸化が減少した。PD-L1を発現する腫瘍を移植したRag(–/–)マウスでは、PD-L1阻害によって、細胞外腫瘍環境のグルコース濃度が上昇した。関連する研究では、Kleffelらが、マウスでメラノーマ細胞上にPD-1が存在し、PD-L1と結合することによってメラノーマの増殖が促進されること、免疫不全マウスでPD-1阻害によってメラノーマの増殖が減少することを示した。このように、腫瘍は代謝競合によってT細胞に疲弊を引き起こし、PD-1とPD-L1の阻害は腫瘍の好気的解糖を低下させることによってTILの機能を亢進させる可能性がある(Sukumarらのコメンタリー参照)。

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