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宿主−病原体相互作用
ストレスが潜伏を克服する仕組み
HOST-PATHOGEN INTERACTIONS
How stress can overcome latency
Sci. Signal. 22 Dec 2015:
Vol. 8, Issue 408, pp. ec377
DOI: 10.1126/scisignal.aaf1100
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. R. Cliffe, J. H. Arbuckle, J. L. Vogel, M. J. Geden, S. B. Rothbart, C. L. Cusack, B. D. Strahl, T. M. Kristie, M. Deshmukh, Neuronal stress pathway mediating a histone methyl/phospho switch is required for herpes simplex virus reactivation. Cell Host Microbe 18, 649–658 (2015). [PubMed]
D. C. Avgousti, M. D. Weitzman. Stress flips a chromatin switch to wake up latent virus. Cell Host Microbe 18, 639–641 (2015). [PubMed]
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ニューロンの中に入ると潜伏感染を確立し、潜伏感染は宿主の生涯にわたって続く。潜伏期には、HSVのDNAゲノムは、転写が抑制されたヘテロクロマチンとしてニューロン核に存在するが(AvgoustiとWeitzmanを参照)、細胞ストレスが、溶解サイクルの再開と感染性ウイルス粒子の産生に必要な遺伝子の発現を再活性化させることがある。Cliffeらは、さまざまな種類の細胞ストレスに応答して活性化されるc-Jun N末端キナーゼ(JNK)経路を介するシグナル伝達が、潜伏HSVの転写抑制を緩和したことを報告している。著者らは、マウスから交感神経ニューロンを分離し、in vitroでHSV-1を感染させ、抗ウイルス薬アシクロビルで処理して潜伏感染を確立させる、in vitro系を開発した。ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)の薬理学的阻害剤を投与すると、ウイルス再活性化が誘導され、それはウイルス遺伝子の転写によって示された。ウイルス再活性化は、JNKシグナル伝達の下流標的である転写因子c-Junのリン酸化(活性化)を伴った。JNKシグナル伝達の薬理学的阻害によって、PI3K阻害に応答したウイルス再活性化が阻止された。潜伏感染マウスから感覚神経節を切除した場合も、c-Junのリン酸化とウイルス再活性化が誘導されたが、外植したニューロンをJNKシグナル伝達阻害剤と培養した場合には誘導されなかった。さらに、ニューロンにおいて、軸索切断または神経成長因子の除去に応答してJNKストレスシグナル伝達を引き起こす、デュアルロイシンキナーゼ(DLK)とJNK相互作用タンパク質-3(JIP-3)が、培養ニューロンにおけるHSV-1再活性化に必要であった。潜伏期には、ウイルス遺伝子プロモーターが、Lys9(H3K9)およびLys27(H3K27)にメチル化修飾を受けたヒストンH3に結合している。ウイルス複製のためには、これらの抑制性ヒストン修飾を取り除かなければならない。H3K9またはH3K27脱メチル化酵素を阻害する化合物によって、再活性化に伴うウイルス遺伝子の初期の転写は阻止されなかったが、HSV-1複製は阻止された。JNKは、in vitroでヒストンH3のSer10でのリン酸化を仲介する能力をもち、この修飾は、ヒストンH3が同時にメチル化されている場合であっても、プロモーターの転写活性化を可能にする。ウイルスプロモーターのLys9でのメチル化およびSer10でのリン酸化の両方を受けているヒストンH3の存在量が、HSV-1再活性化時に増加し、JNKシグナル伝達を阻害した場合には、そのような増加は認められなかった。クロマチン免疫沈降によって、JNKは再活性化時にウイルスプロモーター上で濃縮されていることが明らかになり、このことからJNKは、細胞ストレスに応答して、ヒストンを直接修飾し、HSV-1再活性化の初期に必要な遺伝子の転写を可能にすることが示唆された。