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腸から神経変性を引き起こす
Triggering neurodegeneration from the gut
Sci. Signal. 13 Dec 2016:
Vol. 9, Issue 458, pp. ec291
DOI: 10.1126/scisignal.aam5613
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
T. R. Sampson, J. W. Debelius, T. Thron, S. Janssen, G. G. Shastri, Z. E. Ilhan, C. Challis, C. E. Schretter, S. Rocha, V. Gradinaru, M.-F. Chesselet, A. Keshavarzian, K. M. Shannon, R. Krajmalnik-Brown, P. Wittung-Stafshede, R. Knight, S. K. Mazmanian, Gut microbiota regulate motor deficits and neuroinflammation in a model of Parkinson's disease. Cell 167, 1469-1480 (2016). [PubMed]
要約
パーキンソン病においては、α-シヌクレインの凝集によりドパミン作動性ニューロンの死滅が引き起こされ、結果として運動障害が発生する。α-シヌクレイン凝集体は腸神経にも認められ、パーキンソン病患者においては、便秘などの消化管症状の発生が、運動障害の発生に先行する場合が多い。パーキンソン病患者にはディスバイオシス、すなわちマイクロバイオーム組成の変化が認められること、また、腸内細菌叢は、消化器系と脳の両方においてシグナル伝達と機能を変化させる可能性があることに注目して、Sampsonらは、パーキンソン病のモデルとなるα-シヌクレイン過剰発現マウス(ASOマウス)を用いて、腸内細菌叢とパーキンソン病の関連を検討した。複雑な細菌叢を有するASOマウスと比較して、無菌ASOマウスでは、運動障害が軽減され、糞便排泄が正常であった(正常な消化管機能が示唆された)。さらに、無菌ASOマウスでは、パーキンソン病で侵される脳領域において、α-シヌクレイン凝集の減少と、活性化低下を示唆する形態をもつミクログリアが認められ、いくつかの脳領域において炎症性サイトカイン濃度が低下していた。無菌ASOマウスにおいて出生後に複雑な細菌叢を定着させると、運動障害が悪化し、糞便排泄が減少し、ミクログリア活性化が増加した。一方、複雑な細菌叢を有するASOマウスにおいて、出生後に抗生物質投与により細菌叢を除去すると、運動障害、消化管機能障害、ミクログリア活性化が部分的または完全に改善された。ウイルス感染時に腸内細菌から放出される短鎖脂肪酸が、ミクログリアを活性化させる可能性があるが、無菌ASOマウスでは、複雑な細菌叢を有するASOマウスと比べて、短鎖脂肪酸濃度が低かった。無菌ASOマウスに短鎖脂肪酸を投与すると、ミクログリア活性化とα-シヌクレイン凝集が増加し、運動機能が障害された。パーキンソン病患者の糞便細菌叢を投与されたマウスでは、健常対照者の細菌叢を投与されたマウスよりもより一層の運動機能障害が発生した。これらの結果から、腸内細菌叢によって産生される代謝物が、パーキンソン病に特徴的なミクログリア活性化、α-シヌクレイン凝集、運動障害に関与していることが示唆される。