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酸性で移動するリソソーム
Lysosomes on an acid trip
Sci. Signal. 24 Jul 2018:
Vol. 11, Issue 540, eaau8386
DOI: 10.1126/scisignal.aau8386
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
Z. E. Walton, C. H. Patel, R. C. Brooks, Y. Yu, A. Ibrahim-Hashim, M. Riddle, A. Porcu, T. Jiang, B. L. Ecker, F.Tameire, C. Koumenis, A. T. Weeraratna, D. K. Welsh, R. Gillies, J. C. Alwine, L. Zhang, J. D. Powell, C. V. Dang,Acid suspends the circadian clock in hypoxia through inhibition of mTOR. Cell 174, 72-87.e32 (2018).
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酸性環境はリソソームを細胞周縁部に再分布させ、mTORC1、翻訳、概日振動を抑制する。
要約
概日振動の乱れはがんの発症率増加に関連する。固形腫瘍は概して低酸素状態であるため、低酸素誘導因子(HIF)の活性が上昇し、嫌気的解糖が増強され、周囲環境が酸性化される。Waltonらは、低酸素誘導性の代謝障害と概日リズムの関連を検討した。ヒト骨肉腫U2-OS細胞において、低酸素はさまざまな時計タンパク質の転写レポーターの活性を抑制したが、この作用は、酸性化の緩衝、HIF-1αおよびHIF-2αのノックダウン、あるいは解糖系の阻害によって解消された。RNAシークエンシングにより、酸性培地で培養した細胞またはHIFを安定化させた細胞では、時計タンパク質およびその調節因子をコードするmRNAに存在量の振動性の変化がみられない(または振動性の変化があまり顕著でない)ことが確認された。低pHによって、タンパク質の翻訳と、4EBP1(真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1)を介してタンパク質翻訳を調節する多タンパク質複合体であるmTORC1が阻害された。酸性培地の細胞におけるmTORC1活性の低下は、緩衝によってレスキューされ、アミノ酸感知とは無関係であった。mTORC1活性化を促進するGTP結合タンパク質RHEBは、核周囲領域に局在した。酸性培地は、リソソームを通常の核周囲の位置から細胞周縁部に再分布させ、リソソーム上でのmTORC1とRHEBの共局在を阻害した。これらの観察結果と一致して、腫瘍内pHを上昇させるために重炭酸ナトリウムを添加した水を与えたマウスでは、いくつかの腫瘍型においてmTORC1活性が上昇したが、無添加の水を与えたマウスではそのような作用は認められなかった。これらの結果から、低酸素による概日リズムの抑制は、これまでの研究で示唆されていたような、HIF-1αの時計遺伝子プロモーターへの結合ではなく、HIFが引き起こす代謝変化に起因することが示唆される。