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咳に便乗?
Hitching a ride on a cough?
Sci. Signal. 28 Apr 2020:
Vol. 13, Issue 629, eabc4459
DOI: 10.1126/scisignal.abc4459
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
C. R. Ruhl, B. L. Pasko, H. S. Khan, L. M. Kindt, C. E. Stamm, L. H. Franco, C. C. Hsia, M. Zhou, C. R. Davis, T. Qin,L. Gautron, M. D. Burton, G. L. Mejia, D. K. Naik, G. Dussor, T. J. Price, M. U. Shiloh, Mycobacterium tuberculosissulfolipid-1 activates nociceptive neurons and induces cough. Cell 181, 293-305.e11 (2020).
Google Scholar
M. A. Behr, P. H. Edelstein, L. Ramakrishnan, SLeuthing tuberculosis cough. Cell 181, 230-232 (2020).
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結核菌の構成要素が侵害受容ニューロンを活性化して咳を誘発する。
要約
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染者は、炎症性分子や刺激物質に反応してTRPV1陽性侵害受容ニューロンによって引き起こされうる反射作用である咳によって、結核菌を他者に拡散する可能性がある。Ruhlらは、侵害受容ニューロンを刺激して咳を誘発する分子を結核菌が産生するという仮説を立てた。著者らは、結核感染症モデルのモルモットが咳をする頻度は感染後6週の時点で最も高くなることを示した。培養結核菌の有機抽出物は、無感作モルモットでは咳を誘発し、不死化マウス胚後根神経節(DRG)MED17.11細胞では細胞内Ca2+の増加を引き起こした。また、この有機抽出物はマウス下神経節・頸静脈神経節由来ニューロン(咳反射を引き起こしうる)、マウスDRGニューロン(脊髄へ感覚情報を中継する)、ヒトDRGニューロンでも細胞内Ca2+の増加を誘導したが、TRPV1陽性ヒトニューロンにおける反応は普遍的ではなかった。MED17.11細胞では、結核菌の外膜と細胞壁に豊富に存在する糖脂質である精製スルホリピド1(SL-1)に反応して細胞内Ca2+の増加が引き起こされたが、SL-1合成を途絶する変異を有する細菌の有機抽出物には反応しなかった。SL-1で処理すると、程度は比較的低いものの、TRPV1陽性マウス下神経節・頸静脈神経節由来ニューロン、TRPV1陽性マウスDRGニューロン、ヒトDRGニューロンで細胞内Ca2+の増加が引き起こされた。無感作モルモットにSL-1を投与すると咳が引き起こされたが、SL-1を産生しない細菌に感染させた場合は咳をしなかった。これらの結果は、結核菌の構成要素が侵害受容ニューロンを活性化して細菌伝播を促進していることを示唆している。しかし、関連するコメンタリーでBehrらは、結核菌の近縁種(M. canettii)はSL-1を産生するがヒトからヒトへ伝播しないことと、結核菌から出現したウシ病原菌(M. bovis)は咳を誘発するがSL-1を合成しないことを指摘している。結核感染症の伝播におけるSL-1の役割を明らかにするためには、今後の研究が必要である。