腫瘍の損は医師の得

Tumor’s loss is clinician’s gain

Editors' Choice

Sci. Signal. 05 May 2020:
Vol. 13, Issue 630, eabc5604
DOI: 10.1126/scisignal.abc5604

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

H. Alam, M. Tang, M. Maitituoheti, S. S. Dhar, M. Kumar, C. Y. Han, C. R. Ambati, S. B. Amin, B. Gu, T.-Y. Chen, Y.-H. Lin, J. Chen, F. L. Muller, N. Putluri, E. R. Flores, F. J. DeMayo, L. Baseler, K. Rai, M. G. Lee, KMT2D deficiency impairs super-enhancers to confer a glycolytic vulnerability in lung cancer. Cancer Cell 37, 599-617.e7(2020).
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肺がんではエピジェネティック機構の変異が代謝的脆弱性を作り出す。

要約

がんにおけるエピジェネティックな調節異常の役割が次第に明らかになっている。肺がんでは、ヒストンメチル化修飾因子およびその他のエピジェネティック修飾因子における機能喪失型変異が比較的多くみられる。Alamらは、ヒストンメチルトランスフェラーゼKMT2D(別名、MLL4)における機能喪失型変異が、肺がんにおける代謝的脆弱性を作り出すことを見出した。肺腺がんのマウスモデルにおいて、腫瘍のRNAシーケンシングおよびその後のバイオインフォマティクス解析から、細胞代謝の解糖系および酸化的リン酸化(OXPHOS)経路と関連する遺伝子の発現が亢進していることが示された。このパターンは、患者検体からのデータおよびKMT2D変異LUAD細胞株の培養における代謝物マーカー解析のデータにおいて裏付けられた。KMT2D変異(ならびにKMT2DとKRASの変異)LUADの三次元培養において2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)により解糖系を阻害すると、増殖を阻害し、細胞死を誘導した。

著者らはマウスモデルの腫瘍をさらに詳しく調べ、KMT2Dの喪失は、エンハンサーおよびスーパーエンハンサー状態(遺伝子発現を時空間的に活性化する状態)にあるクロマチン量を減少させること、特に概日リズム関連タンパク質であるPER2をコードする遺伝子でそれが顕著であることを認めた。分子および細胞解析から、KMT2DがPER2の発現を直接亢進し、ひいては解糖系遺伝子の発現を抑制することが示された。これらの所見は、解糖阻害剤がKMT2D欠損肺がん患者の治療に有効である可能性を示唆している。

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2020年5月5日号

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腫瘍の損は医師の得

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