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ミトコンドリアによるメッセージ伝達

Messaging by mitochondria

Editor's Choice

Sci. Signal. 02 Mar 2021:
Vol. 14, Issue 672, eabh2832
DOI: 10.1126/scisignal.abh2832

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

J. R. Brestoff, C. B. Wilen, J. R. Moley, Y. Li, W. Zou, N. P. Malvin, M. N. Rowen, B. T. Saunders, H. Ma, M. R.Mack, B. L. Hykes Jr., D. R. Balce, A. Orvedahl, J. W. Williams, N. Rohatgi, X. Wang, M. R. McAllaster, S. A.Handley, B. S. Kim, J. G. Doench, B. H. Zinselmeyer, M. S. Diamond, H. W. Virgin, A. E. Gelman, S. L. Teitelbaum, Intercellular mitochondria transfer to macrophages regulates white adipose tissue homeostasis and is impaired in obesity. Cell Metab. 33, 270-282.e8 (2021).
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J. Levoux, A. Prola, P. Lafuste, M. Gervais, N. Chevallier, Z. Koumaiha, K. Kefi, L. Braud, A. Schmitt, A. Yacia, A.Schirmann, B. Hersant, M. Sid-Ahmed, S. Ben Larbi, K. Komrskova, J. Rohlena, F. Relaix, J. Neuzil, A.-M.Rodriguez, Platelets facilitate the wound-healing capability of mesenchymal stem cells by mitochondrial transfer and metabolic reprogramming. Cell Metab. 33, 283-299.e9 (2021).
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細胞間ミトコンドリア輸送は代謝の恒常性を促進し、創傷治癒を刺激する

要約

機能的なミトコンドリアが細胞間で輸送されることがある。2報の論文が、異なる生理的状況下で別々の機構を用いて行われる、異なる2つの細胞種間のミトコンドリア輸送の役割を明らかにした。まずBrestoffらは、脂肪組織における脂肪細胞から常在マクロファージへのミトコンドリア輸送が、代謝の恒常性を促進することを見出した。脂肪細胞特異的ミトコンドリアレポーター発現マウスを用いた骨髄移植試験から、マクロファージは白色脂肪細胞からミトコンドリアを獲得して取り込むことが示された。ミトコンドリアを取り込まなかったマクロファージと比較し、脂肪細胞からのミトコンドリアを獲得したマクロファージでは、ミトコンドリア量の増加、ミトコンドリア膜電位の低下、ROS産生の増加、および転写プロファイルの違いが認められた。CRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニングから、ヘパラン硫酸生合成経路に係わる酵素をコードする遺伝子の欠損は、BV2細胞による単離ミトコンドリアの取込みを阻止することが明らかにされた。食事誘発性肥満のマウスでは、脂肪細胞からマクロファージへのミトコンドリア輸送がex vivoおよびin vivoにおいて低下した。さらに、炎症促進性刺激物質であるIFN-γおよびLPSで処理されたBV2細胞では、ミトコンドリアの取込みとヘパラン硫酸の生合成が低下していた。このことから、炎症を伴う肥満はミトコンドリア輸送を低下させることが示唆された。マクロファージによるミトコンドリアの取込みにはヘパラン硫酸生合成酵素Ext1が必須であり、マクロファージのExt1を欠損しているマウスでは対照マウスと比較し、体重の増加、精巣上体の白色脂肪組織の重量増加と脂肪蓄積、および耐糖能障害およびインスリン抵抗性が認められた。このように、脂肪細胞からマクロファージへのミトコンドリア輸送は代謝の恒常性の維持を助け、この輸送は肥満と炎症によって抑制される。

間葉系幹細胞(MSC)は組織修復に関する研究が進められている。多血小板血漿はMSCの修復能を改善するが、これはLevouxらの所見によると一部には血小板からMSCへのミトコンドリア輸送が原因であった。予想されたとおり、ヒトMSCの移植によるマウスの創傷閉鎖は、MSCを血小板と同時に移植したときに強化され、血小板を呼吸鎖阻害剤で前処理していたときに低下した。このことは、創傷治癒に対して血小板が有益な作用をもつためには血小板中の機能性ミトコンドリアが必要であることを示している。ミトコンドリア輸送は、クラスリンを介したダイナミン依存性のエンドサイトーシス経路を通じて生じる。血小板からのミトコンドリア輸送は、MSCの分化、炎症制御能、増殖または生存に影響しなかった。その代わりに、輸送されたミトコンドリアはMSCを刺激して、血管新生促進性サイトカインであるVEGF(血管内皮増殖因子)およびHGF(肝細胞増殖因子)のmRNA発現および分泌をin vitro、in vivoまたはその両方で亢進し、創傷部位の内皮細胞数を増加させた。この作用は、脂肪酸のde novo合成を亢進する、TCA回路を通したクエン酸産生の増加を伴っていた。脂肪酸合成酵素の阻害は、血小板が、共培養したMSCからのVEGFおよびHGF分泌を刺激することを阻害した。反対に、呼吸鎖阻害剤で処理した血小板とMSCを共培養したときに認められたVEGFおよびHGFのmRNA発現と分泌、脂肪酸合成、および創傷治癒の低下は、クエン酸塩の添加により回復した。これらの結果は、血小板からMSCへのミトコンドリア輸送がMSCの創傷治癒能に寄与することを示すものである。まとめるとこれらの論文は、ミトコンドリア輸送がどのようにして、恒常性と修復プロセスを促進するある種の細胞間シグナル伝達をもたらしているかを示している。

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2021年3月2日号

Editor's Choice

ミトコンドリアによるメッセージ伝達

Research Article

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