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乳酸から抗うつまで
From lactate to antidepressant
Science Signaling 08 Jun 2021:
Vol. 14, Issue 686, eabj8007
DOI: 10.1126/scisignal.abj8007
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org
A. Carrard, F. Cassé, C. Carron, S. Burlet-Godinot, N. Toni, P. J. Magistretti, J.-L. Martin, Role of adult hippocampal neurogenesis in the antidepressant actions of lactate. Mol. Psych. (2021).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33990772/ [PubMed]
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乳酸の代謝にはマウスにおいて抗うつ作用がある。
要約
うつ病は重大な障害を引き起こし、さらに治療困難である。ストレスはうつ病を引き起こすことがあるが、一方で運動はストレスを相殺することができ、患者に有益な作用を及ぼす。運動の1つの産物であるエンドルフィンは、しばしばそれらの有益性について高く評価されている。Carrardらは、運動の異なる産物である乳酸の代謝が、海馬のニューロンの増殖を刺激することで抗うつ作用をもつことを見いだした。うつ病のマウスモデルに対するストレスホルモン・コルチコステロンの投与は、成体の海馬神経前駆細胞(NPC)の増殖と生存を抑制し、マウスにうつ様行動を誘発した。しかし、その後に乳酸を腹腔内注射(1日1回で3週間注射)すると、NPCの消失が回復し、行動が改善した。注目すべきことに、乳酸代謝の酸化生成物であるピルビン酸の投与後には、これらの回復は認められなかった。その代わりに著者らは、1つの有益なメディエーターはNADHであることをつきとめた。NADHは、乳酸が乳酸デヒドロゲナーゼによってピルビン酸に酸化される過程で生成される抗酸化物質であり、ニューロンのNMDA受容体の活性の促進に関連することが示されている。NADHの投与は乳酸と同様、NPCにおいて活性酸素種の産生を抑制し、コルチコステロンによって引き起こされたNPCの消失を回復させた。神経発生の化学的阻害は乳酸の抗うつ作用を抑制したが、このことは、神経発生作用が重要であることを示唆していた。これらの知見は治療戦略に重要であり、エネルギー代謝、神経科学およびうつ病の間の関係に関するわれわれの理解を広げると考えられる。