ストレスの多い記憶

Stressful memories

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
26 Oct 2021 Vol 14, Issue 706
DOI: 10.1126/scisignal.abm9096

ANNALISA M. VANHOOK

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org

S. B. Larsen, C. J. Cowley, S. M. Sajjath, D. Barrows, Y. Yang, T. S. Carroll, E. Fuchs, Establishment, maintenance, and recall of inflammatory memory. Cell Stem Cell 28, 1758-1774.e8 (2021).
CROSSREF  PUBMED  GOOGLE SCHOLAR

T. M. Nguyen, M. Aragona, Stress-responsive transcription factors train stem cells to remember. Cell Stem Cell 28, 1679-1680 (2021).
CROSSREF  PUBMED  GOOGLE SCHOLAR

上皮幹細胞における炎症記憶の確立、維持および再活性化のため、STAT3、FOSおよびJUNが協調的に働いている

要約

炎症性刺激に曝露された細胞は、その後の炎症性および非炎症性刺激に速やかに応答して生存する能力を高めることができる。このようなエピジェネティックな現象は「炎症記憶」または「訓練免疫(trained immunity)」と呼ばれ、上皮幹細胞(EpSC)をはじめとする多くの細胞種で認められる(Nguyen and Aragonaの論説参照)。Larsenらは、皮膚刺激物で一時的に処理したマウスを用いて、炎症が生じている間に開き炎症消失後にも開いた状態を維持する、EpSCのクロマチンドメインを同定した。予想されたとおり、これらの記憶ドメインは、炎症反応に関与する遺伝子と関連していた。またこれらのドメインは、炎症が生じている間は活発な転写状態を示すヒストン修飾でマークされ、消失後には、転写のプライミングを示唆する修飾でマークされていた。さらにこれらの記憶ドメインは、炎症によって活性化される転写因子STAT3、およびストレス応答を媒介するFOSとJUNの二量体であるAP1の、標的であると予想された。STAT3は、炎症が生じた際の記憶ドメインの確立、およびそのドメインへのFOSとJUNの結合を促進するために必要であった。炎症の消失後、JUNは、いずれもホメオスタティック転写因子でありナイーブなEpSC内の部位には存在していないATF3およびp63とともに、記憶ドメインに留まっていた。このことは、これらがクロマチンの開いた状態の維持を助けるだろうことを示唆していた。それに続く組織損傷の間には、FOSが速やかに記憶ドメインに集合し、AP1依存性転写の再活性化をもたらした。公表されているデータを解析したところ、炎症はマウスおよびヒトの種々の細胞種を誘導して、炎症の消失後にも維持されFOSおよびJUN結合部位に豊富に存在する、アクセス可能なクロマチンのドメインを生成することが示唆された。以上の知見は、多様な細胞種が同様の機構を用いて炎症の記憶を確立、維持および想起していることを意味している。

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2021年10月26日号

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ストレスの多い記憶

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