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飢餓状態でのアセチル化のシフト
Shifting acetylation during starvation
SCIENCE SIGNALING
18 Jan 2022 Vol 15, Issue 717
DOI: 10.1126/scisignal.abo1065
WEI WONG
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org
W.-C. Hsieh, B. M. Sutter, H. Ruess, S. D. Barnes, V. S. Malladi, B. P. Tu, Glucose starvation induces a switch in the histone acetylome for activation of gluconeogenic and fat metabolism genes. Mol. Cell 82, 60-74.e5 (2022).
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酵母におけるグルコース欠乏は、ヒストンのアセチル化をアセチル-CoA産生促進に向けて切り替える。
要約
ヒストンテールの修飾は、ヒストンでパッケージングされたDNAの転写装置へのアクセシビリティを変化させる。アセチル化、すなわちグルコース、脂肪酸またはアミノ酸の異化を通じて産生されたアセチル-CoAによるタンパク質の翻訳後修飾は、一般に遺伝子転写を促進する。Hsiehらは、グルコース飢餓がヒストンのアセチル化を、成長促進遺伝子から糖新生および脂肪代謝遺伝子にシフトさせることを見いだした。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)をグルコース飢餓状態にしたとき、細胞内アセチル-CoAが速やかに減少し、それに伴ってヒストンH3のアセチル化も低下したが、ヒストンH4のアセチル化は低下しなかった。H3のアセチル化の低下はグルコースの再添加により回復した。グルコースに対して最も反応性が高いアセチル化修飾はH3K9acであった。グルコース欠乏条件下ではH3K9acは成長促進遺伝子から消失しており、糖新生および脂肪酸酸化に関与する遺伝子では豊富に認められた。前者の現象は低グルコース濃度に対する細胞の耐性に役立つと予想され、後者の現象は、これらの経路がグルコース欠乏時の主要なアセチル-CoA産生経路であることを示していた。グルコース飢餓状態では利用できるアセチル-CoAは非常に少ないもののH3K9acアセチル化修飾が生じるということは、アセチル-CoAが成長促進遺伝子から糖新生および脂肪酸酸化遺伝子に再配分されることを示唆していた。このようなヒストンのアセチル化の再分布のためには、ヒストンアセチル化酵素Gcn5p、SAGA転写コアクチベーター複合体の他の構成要素のほか、ヒストン脱アセチル化酵素Rpd3pを必要とした。またグルコース欠乏は、SAGAと種々の転写因子との相互作用を増強していた。このように、グルコース欠乏条件下で生じる細胞内アセチル-CoA存在量の減少はヒストンの再分布を誘導し、アセチル-CoAを産生する酸化のための経路を優先するように転写活性を切り替える。