腸から来る不安

Anxiety from the gut

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
1 Mar 2022 Vol 15, Issue 723
DOI: 10.1126/scisignal.abo7812

LESLIE K. FERRARELLI

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

B. D. Needham, M. Funabashi, M. D. Adame, Z. Wang, J. C. Boktor, J. Haney, W.-L. Wu, C. Rabut, M. S. Ladinsky, S.-J. Hwang, Y. Guo, Q. Zhu, J. A. Griffiths, R. Knight, P. J. Bjorkman, M. G. Shapiro, D. H. Geschwind, D. P. Holschneider, M. A. Fischbach, S. K. Mazmanian, A gut-derived metabolite alters brain activity and anxiety behaviour in mice. Nature 602, 647-653 (2022).
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A. Stewart Campbell, B. D. Needham, C. R. Meyer, J. Tan, M. Conrad, G. M. Preston, F. Bolognani, S. G. Rao, H. Heussler, R. Griffith, A. J. Guastella, A. C. Janes, B. Frederick, D. H. Donabedian, S. K. Mazmanian, Safety and target engagement of an oral small-molecule sequestrant in adolescents with autism spectrum disorder: An open-label phase 1b/2a trial. Nat. Med. (2022).
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腸内細菌代謝物が脳内のミエリン形成を抑制することで、不安とそれに関連する行動を促進している

腸内細菌叢は、神経学的機能および行動など健康の様々な側面と関連している。しかし、この腸-脳軸において鍵となるシグナル伝達分子とその作用機序を特定することはこれまで困難であった。Needhamらは今回、不安関連行動の根底にあると考えられる、そのような機序の1つを特定した。血清中の4‐エチルフェニルサルフェート(4-EPS)量と、マウスにおける自閉症様行動およびヒトにおける自閉症スペクトラム障害(ASD)に相関があるという過去の知見に基づき、著者らはマウスの腸内細菌から4-EPを産生する菌株をスクリーニングした(4-EPは宿主によって硫酸化され4-EPSとなる。生化学的アッセイから、このプロセスはマウスの腸管、肝臓および脳内に認められるSULT1A1が介在している可能性が明らかにされている)。同定された菌株、すなわちBacteroides ovatusおよびLactobacillus plantarumは共に、食餌中のチロシン由来の中間代謝物を介して4-EPを産生していた。In vivoにおける4-EPの影響をさらに明らかにするため、著者らはその産生に重要な遺伝子を同定し、遺伝子操作により大量の4-EPを産生する細菌(4EP+)または一切産生しない細菌(4EP-)を作製し、このように操作した菌株を無菌マウスに定着させた。その結果、4EP+定着マウスでは血清中および脳内に4-EPSが確認され、文脈的恐怖学習および不安を制御する領域を含む複数の脳内領域で、脳活動が亢進していた。4EP+定着マウスから採取した脳組織のRNAシーケンシングを行ったところ、Notchシグナル伝達経路が標的とする遺伝子の発現が亢進しており、一方で神経投射および成熟オリゴデンドロサイトと関連する遺伝子の発現は低下していた(以前報告されていた、Notchシグナル伝達とオリゴデンドロサイト成熟抑制との関連に一致していた)。4-EPまたは4-EPSで処理した対照脳スライスのタンパク質量についても、同様の結果が認められた。成熟オリゴデンドロサイトは、軸索を保護して神経伝達を促進する脂肪性物質であるミエリンを産生し、神経軸索をミエリンで覆う。Ex vivoにおいて4-EPまたは4-EPSで処理した対照脳スライスでは、ミエリンと神経軸索の共局在が減少していたが、一方で、4EP+ 定着マウスから採取した脳組織ではニューロンのミエリン形成が低下し、不均一性が増していた。さらにこのようなマウスでは不安様行動が亢進し、社会的コミュニケーションが低下していた。通常の細菌が定着しているマウスに4-EPまたは4-EPSを経口投与したとき、行動に対する同様の効果が見られたが、4EP+定着マウスにおいてオリゴデンドロサイトの成熟を薬理学的に増強したとき、このような効果は抑制された。別の試験としてCampbellらはASDの青年患者を対象としたパイロット試験を行い、4-EPSと結合する消化管限局性の薬剤またはその他の低分子の芳香族/フェノール化合物を経口投与したとき、不安と焦燥感が緩和することを見いだした。まとめるとこれらの知見から、ASDに伴う不安および関連行動に寄与する、腸-脳軸の機能的かつ治療標的となりえるシグナル伝達機構が明らかにされた。

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2022年3月1日号

Editor's Choice

腸から来る不安

Research Article

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