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ケタミンによる抗うつ作用とストレス

Stress with ketamine tackles depression

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
27 Sep 2022 Vol 15, Issue 753
DOI: 10.1126/scisignal.ade9960

LESLIE K. FERRARELLI

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

P. Georgiou, P. Zanos, T. M. Mou, X. An, D. M. Gerhard, D. I. Dryanovski, L. E. Potter, J. N. Highland, C. E. Jenne, B. W. Stewart, K. J. Pultorak, P. Yuan, C. F. Powels, J. Lovett, E. F. R. Pereira, S. M. Clark, L. H. Tonelli, R. Moaddel, C. A. ZarateJr., R. S. Duman, S. M. Thompson, T. D. Gould, Experimenters' sex modulates mouse behaviors and neural responses to ketamine via corticotropin releasing factor. Nat. Neurosci. 25, 1191-1200 (2022).

G. Descalzi, V. Mitsi, I. Purushothaman, S. Gaspari, K. Avrampou, Y.-H. E. Loh, L. Shen, V. Zachariou, Neuropathic pain promotes adaptive changes in gene expression in brain networks involved in stress and depression. Sci. Signal. 10, eaaj1549 (2017).

ストレスホルモンがケタミンの抗うつ作用を可能にする

10年近く前、男性研究者から選択的に放出されるフェロモンがマウスにストレス応答を誘導し、有痛性刺激に対する感受性を抑制することが報告された。この報告から、研究者の性別が動物(少なくともマウスの)研究における1変数であるという見解が導入された。このほどGeorgiouらは、この要素と、特にそれに伴うストレス応答が、マウスにおけるケタミンの抗うつ作用に重要であることを見いだした。著者らは種々の投与方法と種々の試験を通じて、男性の皮膚から放出されるフェロモンの匂いに対してマウスが特異的に嫌悪を示すことを明らかにした。この嫌悪が薬理学的反応に影響するか否かに興味をもち、著者らは、抗うつ作用をもつと報告されている麻酔下用量のケタミンをマウスに投与して作用を検討した。男性の試験担当者がケタミンを投与したとき、慢性ストレスに再曝露されたマウスがみせるうつ様行動は抑制された。この効果はケタミンに選択的であり、異なる古典的な抗うつ薬の効果に対しては試験担当者の性別は影響しなかった。ストレスホルモンであるコルチコトロピン放出因子(CRF)を脳室内投与したとき、女性の試験担当者が投与したケタミンに抗うつ効果がみられた。一方で、男性の試験担当者が投与するケタミンの抗うつ効果は、CRF受容体アンタゴニストの投与によって阻害された。ケタミン代謝物である(2R,6R)-HNKを投与したときも、同様の結果が認められた。ケタミンを投与されたヒトにおいてもそのような相互作用が生じるか否か、またはそれが必要なのかは明らかでないが、この知見から、薬物の抗うつ作用を選択的に利用する方法が解明される可能性がある。さらにマウスとヒトでは脳内の遺伝子発現プログラム、並びに疼痛、ストレスおよび抑うつによって変化する顕在的行動が著しく重複していることを考えると(例として、本誌ArchivesのDescalziらの論文を参照)、これらの知見は生化学、生理学および医薬品開発に広範な意味をもつ可能性がある。それらは最終的に、動物研究の実施、解析および報告方法にも影響するかもしれない。

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ケタミンによる抗うつ作用とストレス

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