ミトコンドリアを心臓に

Taking mitochondria to heart

Editors' Choice

SCIENCE SIGNALING
18 Oct 2022 Vol 15, Issue 756
DOI: 10.1126/scisignal.adf2995

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

N. Borcherding, W. Jia, R. Giwa, R. L. Field, J. R. Moley, B. J. Kopecky, M. M. Chan, B. Q. Yang, J. M. Sabio, E. C. Walker, O. Osorio, A. L. Bredemeyer, T. Pietka, J. Alexander-Brett, S. C. Morley, M. N. Artyomov, N. A. Abumrad, J. Schilling, K. Lavine, C. Crewe, J. R. Brestoff, Dietary lipids inhibit mitochondria transfer to macrophages to divert adipocyte-derived mitochondria into the blood. Cell Metab. 34, 1499-1513.e8 (2022).

脂肪細胞から放出されたミトコンドリアの取込み先を、長鎖脂肪酸が、マクロファージから心臓に切り替える。

脂肪組織における脂肪細胞から常在マクロファージへのヘパラン硫酸依存性のミトコンドリア輸送は、代謝の恒常性を促進している。しかしこのプロセスは高脂肪食によって阻害される。高脂肪食は、酸化的損傷を受けたミトコンドリアの脂肪細胞から全身への放出を誘導し、そのミトコンドリアは心臓に取り込まれる。Borcherdingらは、脂肪組織から放出されたミトコンドリアの取込み先のマクロファージから心臓へのこのような転換が、長鎖脂肪酸を多く含む食事の摂取により促進されることを見いだした。脂肪細胞特異的ミトコンドリアレポーター発現マウスを用いた解析から、ミトコンドリアはマクロファージのみでなく、脂肪組織内の他の細胞種(内皮細胞、好中球など)にも組織特異的に輸送されることが明らかとなった。脂肪細胞から他の細胞種、特にマクロファージへのミトコンドリア輸送は、長鎖脂肪酸で構成されるラードを含有する高脂肪食の摂取により減少した。マクロファージ様BV2細胞を長鎖脂肪酸で処理すると、精製ミトコンドリアの取込み量および取り込まれた後のミトコンドリアの体積が減少した。長鎖脂肪酸は、マクロファージによるヘパラン硫酸依存性のミトコンドリア取込み機構を阻害した。ラード含有高脂肪食を摂取したマウスでは、脂肪細胞由来ミトコンドリアの循環血中への放出、および心臓組織におけるこれらミトコンドリアの出現が増加した。ラード含有高脂肪食のこれらの作用は、ヤシ硬化油(主に中鎖脂肪酸で構成される)を含有する高脂肪食、ショ糖またはコーンスターチを多く含む食事、または加齢によっては生じなかった。このように食事による長鎖脂肪酸摂取は、脂肪組織から放出されるミトコンドリアが脂肪組織のマクロファージに取込まれるのを阻害し、これらミトコンドリアが心臓に取込まれるように切り替える。

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2022年10月18日号

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ミトコンドリアを心臓に

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