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ピロトーシスのパラダイムに風穴をあける

Poking holes in pyroptosis paradigms

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
24 Jan 2023 Vol 16, Issue 769
DOI: 10.1126/scisignal.adg7522

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

D. Stojkov, M. J. Claus, E. Kozlowski, K. Oberson, O. P. Schären, C. Benarafa, S. Yousefi, H.-U. Simon, NET formation is independent of gasdermin D and pyroptotic cell death. Sci. Signal. 16, eabm0517 (2023).

B. Zhou, C. B. Ryder, G. R. Dubyak, D. W. Abbott, Gasdermins and pannexin-1 mediate pathways of chemotherapy-induced cell lysis in hematopoietic malignancies. Sci. Signal. 15, eabl6781 (2022).

E. Neuwirt, G. Magnani, T. Ćiković, S. Wöhrle, L. Fischer, A. Kostina, S. Flemming, N. J. Fischenich, B. S. Saller, O. Gorka, S. Renner, C. Agarinis, C. N. Parker, A. Boettcher, C. J. Farady, R. Kesselring, C. Berlin, R. Backofen, M. Rodriguez-Franco, C. Kreutz, M. Prinz, M. Tholen, T. Reinheckel, T. Ott, C. J. Groß, P. J. Jost, O. Groß, Tyrosine kinase inhibitors can activate the NLRP3 inflammasome in myeloid cells through lysosomal damage and cell lysis. Sci. Signal. 16, eabh1083 (2023).

細胞死の機構にはまだ学ぶべき点が多いことが複数の研究から明らかに

制御された細胞死は組織の恒常性を維持しており、また、この細胞死は種々の機構によって媒介されている。ピロトーシスとは、炎症性・溶解性の制御された細胞死であり、病原性感染症に応答して生じることが多いが、一部の腫瘍では化学療法を受けて生じることもある。ピロトーシス性細胞死によって最終的に放出される細胞内容物は、監視している免疫細胞を刺激するが、これは宿主にとって有益にも有害にもなりえる。ピロトーシス、また、さらに広くには細胞死の機構および制御に関するわれわれの理解は年々進歩してきたが、最近の複数の研究からそれらの理解がさらに深められ、不明な点がまだ多数あることが示されている。本誌今週号でStojkovらは、従来の考えに反してガスダーミンD(GSDMD)の切断、インフラマソームの活性化、および溶解性細胞死(これらはピロトーシスの特徴を決定している)は排他的なものではなく、それら全体でNET(好中球細胞外トラップ)と呼ばれる抗菌性の網状構造の形成と放出の基礎となることを明らかにしている。実際、GSDMD欠損マウスの好中球は野生型マウスの好中球と同様のNET産生能をもっていた。さらに、好中球におけるGSDMD依存的なインフラマソーム活性化によって細胞死が生じることはなかった。これらの知見は、細胞死およびNETの形成におけるピロトーシスの機構に関して、また、NETに関連した免疫および疾患における細胞死の役割に関して、従来の想定に疑問を投げかけている。

同様に本誌ArchivesにおいてZhouらは、ヒト骨髄細胞および白血病細胞におけるピロトーシス性細胞死の経路が、以前考えられていたほど状況に制限されないことを見いだした。従来は、GSDMDおよびガスダーミンE(GSDME)はそれぞれピロトーシス性の溶解性細胞死の独立した経路を媒介する、すなわち、GSDMDは感染と炎症に応答し、GSDMEは化学療法に応答すると考えられていた。著者らは実際、GSDMEが化学療法に誘導されるピロトーシスを媒介する傾向があることを確認していた。しかしGSDMDも多量に存在した場合は、さらにはイオンチャネルであるパネキシン-1も、ガスダーミンへの依存性にかかわらず化学療法によって誘導された。どの経路が細胞死を媒介するかは、ガスダーミンとパネキシンの相対的存在量に決定されていた。これらの知見は、ピロトーシス性細胞死が比較的直線的かつ状況特異的な経路で生じるという想定を混乱させるものである。

さらに本誌ArchivesにおいてNeuwirtらは、一般的な抗がん薬である数種のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が、骨髄系細胞におけるリソソームの損傷、インフラマソームの活性化、および溶解性細胞死を誘導することを見いだした。ただしTKI誘導性の溶解性細胞死は、ピロトーシスに関連するカスパーゼおよびガスダーミンを欠損している細胞でも、また、その他に確認されている溶解性細胞死経路のメディエータが欠損している細胞でも生じたことから、このような場合には、異なる(ただし、まだ特定されていない)インフラマソーム活性化および溶解性細胞死の機構が存在している可能性が高まった。まとめるとこれらの知見は、ピロトーシスがどのように、またどのような状況で生じるかという問題はこれまで考えられていた以上に複雑であることを浮き彫りにし、さらに、細胞死の機構に関する我々の理解のますますの進展に寄与するものである。今後さらなる洞察が得られることで、臨床医が細胞死を利用したり阻害したりして患者に貢献できるような、医薬品や診断法の将来的な開発が促進されるかもしれない。

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ピロトーシスのパラダイムに風穴をあける

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