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アロステリックなスイッチが枯草菌(Bacillus subtilis)由来ヒスチジンキナーゼDesKによる効率的な一方向性の情報伝達を確実にする
An allosteric switch ensures efficient unidirectional information transmission by the histidine kinase DesK from Bacillus subtilis
SCIENCE SIGNALING
24 Jan 2023 Vol 16, Issue 769
DOI: 10.1126/scisignal.abo7588
Sofía Lima1, Juan Blanco2, Federico Olivieri2, Juan A. Imelio1, Marcos Nieves1, Federico Carrión3, Beatriz Alvarez4, 5, Alejandro Buschiazzo1, 6, Marcelo A. Marti2, Felipe Trajtenberg1, *
- 1 Laboratory of Molecular and Structural Microbiology, Institut Pasteur de Montevideo, Montevideo, Uruguay.
- 2 Departamento de Química Biológica e IQUIBICEN-CONICET, Facultad de Ciencias Exactas y Naturales, Universidad de Buenos Aires, Buenos Aires, Argentina.
- 3 Laboratorio de Inmunovirología, Institut Pasteur de Montevideo, Montevideo, Uruguay.
- 4 Laboratorio de Enzimología, Instituto de Química Biológica, Facultad de Ciencias, Universidad de la República, Montevideo, Uruguay.
- 5 Centro de Investigaciones Biomédicas, Universidad de la República, Montevideo, Uruguay.
- 6 Département de Microbiologie, Institut Pasteur, Paris, France.
* Corresponding author. Email: felipet@pasteur.edu.uy
リン酸基の順方向への流れを強化する
二成分系(TCS)は、キナーゼ活性とホスファターゼ活性を併せ持つことの多いセンサーヒスチジンキナーゼ(HK)の下流に応答調節因子(RR)をもつ構成になっている。不活性のときには、HKはホスファターゼ状態にあるため、系はオフ状態に保たれる。活性キナーゼ状態では、HKは自己リン酸化を引き起こし、リン酸転移状態に移行してリン酸基をRRへ転移させる。Limaらは、構造的、計算論的、生化学的な手法を用いて、枯草菌(Bacillus subtilis)のDesK-DesR TCSにおけるリン酸転移の方向性の決定要因と、無益なリン酸転移サイクルが最小化される仕組みを調べた。DesKがリン酸化されていない場合の好ましくないリン酸転移状態、リン酸化転移反応に関与する残基間の距離、リン酸化されたRRの二量体化はすべて、この系を介した情報の順方向への流れを確実にすることに関与していた。同様の原理は、他のTCSにも当てはまる可能性があり、一部のTCSのリン酸転移反応が不可逆的である理由として考えうる説明を提示している。-AMV
要約
リン酸化は、生物系において化学情報の運び手となる。二成分系(TCS)では、センサーヒスチジンキナーゼと応答調節因子が、一方向性または二方向性のリン酸転移反応を介して連結されている。方向性は、シグナル伝播を最適化して情報の順方向への流れを確実にする複雑な調節ネットワークの構成を可能にする。われわれは、X線結晶構造解析、ハイブリッド量子力学/分子力学(QM/MM)シミュレーション、システム統合動力学モデリング法を組み合わせて、枯草菌(Bacillus subtilis)の感温性TCS DesK-DesRを介したリン酸の流れを研究した。ホスファターゼ活性、自己キナーゼ活性、ホスホトランスフェラーゼ活性の分離によってリン酸基の逆転移と無益なリン酸化・脱リン酸化サイクルを回避するには、ヒスチジンキナーゼDesKのアロステリックな調節がきわめて重要であった。キナーゼのATP結合ドメインと調節因子のレシーバドメインの相互作用によって、調節因子はホスホトランスフェラーゼとホスファターゼの複合体内の2つの別個の位置に配置され、それによって、DesKの重要なグルタミン残基が脱リン酸化反応を補助するのに適した位置に配置されるかどうかが決まった。さらに、DesKがリン酸化されていない場合、エネルギー的に好ましくないホスホトランスフェラーゼ立体構造が逆向きのリン酸転移を最小化した。DesRの二量体化と解離性のリン酸転移反応も、リン酸の流れの方向を強化した。リン酸のアクセプター残基とドナー残基の間の距離が短縮または伸長されると、Mg2+補助因子の安定化効果が調節されることによって、リン酸化転移の平衡状態が変化した。これらの機構は、シグナル伝達の方向性を調節しており、構造にコードされたアロステリック性がシグナル伝達系において情報を格納し伝達する仕組みを示している。