PCOSに痛手

A gut punch for PCOS

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SCIENCE SIGNALING
18 Jun 2024 Vol 17, Issue 841
DOI: 10.1126/scisignal.adr0297

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

C. Yun, S. Yan, B. Liao, Y. Ding, X. Qi, M. Zhao, K. Wang, Y. Zhuo, Q. Nie, C. Ye, P. Xia, M. Ma, R. Li, C. Jiang, J. Qiao, Y. Pang, The microbial metabolite agmatine acts as an FXR agonist to promote polycystic ovary syndrome in female mice. Nat. Metab. 6, 947-962 (2024).

腸内細菌叢由来代謝物によるGLP-1放出の抑制が、多嚢胞性卵巣症候群を引き起こす。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、アンドロゲン過剰症などのホルモン不均衡を特徴とする内分泌疾患であり、女性において不妊や心血管系および代謝異常を引き起こす。PCOSは腸内細菌叢の変化と関連があり、その1つはBacteroides vulgatus種の増加であるが、B. vulgatusは雌マウスに定着するとPCOS様症状を誘発する。著者らは、B. vulgatusがPCOSを促進する機構を検討した。健康な人と比べてPCOS患者では、腸管のL細胞から放出される低血糖誘導性ペプチドホルモンであるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の循環量が低かった。GLP-1量は、男性ホルモンアンドロステンジオン量およびインスリン抵抗性と負の相関を示した。GLP-1受容体作動薬のリラグルチドによって、マウスにおいてB. vulgatus定着に起因するPCOS様症状が改善した。解糖はGLP-1分泌の誘因であり、核内受容体であるファルネソイドX受容体(FXR)によって阻害される可能性がある。Stanniocalcin(STC-1)腸上皮L細胞では、B. vulgatusの粗抽出物が、FXRを活性化することによってGLP-1放出を低下させた。FXRを腸管特異的に欠損したマウスでは、B. vulgatusの定着後にPCOS様症状が発現しなかった。FXRは、B. vulgatusの代謝物であるアグマチンによって活性化された。アグマチンは、speAによってコードされるアルギニン脱炭酸酵素(ADC)によって産生される。PCOS患者では健康な人と比べて糞便中のアグマチン量とB. vulgatus speA量が多く、B. vulgatus定着マウスでは対照マウスと比べて、糞便中および腸管内のアグマチン量が多かった。アグマチンはマウスにおいて、FXR依存的にPCOS様症状を引き起こした。逆に、speAの欠失またはADC阻害剤であるジフルオロメチルアルギニン(DFMA)の投与によって、マウスにおいてB. vulgatus定着がPCOS様症状を誘発する能力が低下し、男性ホルモンDHEAによりPCOSを誘発したマウスでは症状が軽減した。したがって、B. vulgatusは、FXRの活性化とGLP-1放出の抑制によってPCOSを促進する代謝物を産生する。

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