腫瘍と闘うために眠る

Sleep to fight tumors

Editors' Choice

SCIENCE SIGNALING
6 Aug 2024 Vol 17, Issue 848
[DOI: 10.1126/scisignal.ads1573]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

F. Peng, J. Lu, K. Su, X. Liu, H. Luo, B. He, C. Wang, X. Zhang, F. An, D. Lv, Y. Luo, Q. Su, T. Jiang, Z. Deng, B. He, L. Xu, T. Guo, J. Xiang, C. Gu, L. Wang, G. Xu, Y. Xu, M. Li, K. W. Kelley, B. Cui, Q. Liu, Oncogenic fatty acid oxidation senses circadian disruption in sleep-deficiency-enhanced tumorigenesis. Cell Metab. 36, 1598-1618 (2024).

睡眠不足は、細胞内脂質代謝の日周リズムの消失を介して腫瘍の増殖を促進する。

慢性的な睡眠不足は、がんの発症および進行などの、多くの健康問題の原因となる。Pengらは、睡眠不足が、脂質代謝の概日リズムを撹乱することによって、腫瘍の増殖と幹細胞性(転移および薬剤耐性に関連する転写プログラム)を促進することを見出した。マウスの肺組織と腫瘍における遺伝子発現および代謝物の解析により、慢性的に睡眠不足のマウスでは脂質代謝、特に脂肪酸酸化の日周振動が消失していることが明らかになった。睡眠不足によってさらに、細胞増殖および幹細胞性に関連するマーカーの存在量が安定的に増加し、腫瘍増殖が促進され、マウスの生存率が低下した。睡眠不足によって生じる日周リズム性の消失に起因する、脂肪酸酸化の持続時間の延長が、フィードフォワード機構の一部であった。睡眠不足によって、概日転写因子CLOCKをコードする遺伝子の発現が増加し、脂肪酸を細胞内エネルギー産生やタンパク質パルミトイル化に用いられる形態に変換する酵素をコードするAcsl1の発現が活性化した。続いてACSL1がCLOCKのパルミトイル化を仲介し、その分解を阻止することによって、フィードフォワードループを促進した。睡眠不足の肺がん担がんマウスにおいて脂肪酸酸化を抑制する、またはAcsl1を欠失させると、これらの作用と幹細胞性遺伝子の発現、腫瘍の増殖が阻害された。睡眠不足はホルモンの概日リズムも撹乱することから、著者らは、この機構に対する睡眠関連ホルモンの影響を検討した。睡眠不足マウスの腫瘍において、β-エンドルフィンの投与により、ClockおよびAcsl1のリズム性発現が回復し、幹細胞性遺伝子の発現が低下することがわかった。さらに、β-エンドルフィンは、睡眠不足マウスの休息時間帯の8時間投与された場合、ACSL1依存的に腫瘍増殖を抑制したが、活動時間帯の8時間投与された場合にはそのような作用を示さなかった。これらの結果は、睡眠不足に悩む患者において肺がんの進行を抑制する可能性のある、標的化可能な機構を明らかにしており、概日リズムは健康に重要であるだけでなく、治療戦略においても重要であることをさらに強調している。

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2024年8月6日号

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腫瘍と闘うために眠る

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