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細胞ごとの老化と加齢関連疾患

Aging and age-related disorders, cell by cell

Editors' Choice

SCIENCE SIGNALING
10 Sep 2024 Vol 17, Issue 853
[DOI: 10.1126/scisignal.ads9401]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.

Corresponding author. Email: lferrare@aaas.org

A. S. Fröhlich, N. Gerstner, M. Gagliardi, M. Ködel, N. Yusupov, N. Matosin, D. Czamara, S. Sauer, S. Roeh, V. Murek, C. Chatzinakos, N. P. Daskalakis, J. Knauer-Arloth, M. J. Ziller, E. B. Binder, Single-nucleus transcriptomic profiling of human orbitofrontal cortex reveals convergent effects of aging and psychiatric disease. Nat. Neurosci., doi.org/10.1038/s41593-024-01742-z, (2024).

老化した脳の細胞型特有の遺伝子シグネチャは加齢関連疾患との生物学的関連を示唆する。

加齢は神経変性疾患の主な危険因子であり、個人の精神的健康に影響を及ぼす可能性のある身体的および社会的変化の両方を引き起こす。興味深いことに、その逆もまた同様で、若年または中年期に精神疾患と診断されることも、老化の加速および神経変性疾患のリスクを高める。Fröhlichらは、20代半ばから80代半ばまでのヒトドナーの死後組織を用いて、眼窩のすぐ上の脳前部にある領域である眼窩前頭皮質の個々の細胞における遺伝子発現プログラムのプロファイルを作成した。眼窩前頭皮質は、意思決定などの高次実行機能に関与している。すべての細胞型で、加齢と相関する形で遺伝子発現の変化が見られた。mRNAスプライシングに関与する因子を発現する遺伝子が増加したのに対し、神経伝達物質の分泌、逆行性輸送、後シナプス組織化に関与する遺伝子は減少した。これらはすべて、ヒト脳組織のバルク解析による研究と一致した。しかしながら、ここでの細胞特異的解析により、最も顕著な変化は、興奮性ニューロンに比べてあまり知られていない細胞型である抑制性皮質介在ニューロンの特殊なサブセット(Lamp5+)で見られることが明らかになった。同様に、ミクログリアは老化脳の免疫活動の増加に関連する遺伝子シグネチャを示し、内皮細胞は加齢に伴う血液脳関門の輸送低下を示唆する変化を示した。興奮性、抑制性、グリア細胞のいくつかの型に渡って、加齢関連遺伝子発現は、神経変性疾患および精神疾患、最も広義にはそれぞれアルツハイマー病および統合失調症に関連する遺伝子シグネチャと相関していた。より細胞型に特有な形では、脱髄疾患の遺伝子シグネチャはミクログリア由来の遺伝子シグネチャに多く見られ、気分障害のシグネチャは抑制性ニューロンのサブセット(概日リズム調節に関与するVIPニューロン)に多く見られ、薬物乱用のシグネチャはさまざまな神経機能や病理における役割が過小評価されている可能性のあるもう一つの細胞型であるオリゴデンドロサイトに多く見られた。細胞型別に収束および分岐する老化、精神病理、神経変性疾患の遺伝子シグネチャをまとめたこの大規模なリソースは、高齢化社会のヘルスケア戦略を改善するためにそれらの生物学的関連を探索するための豊富な基盤を提供する。

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