老化を回避する

Bypassing senescence

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SCIENCE SIGNALING
21 Jan 2025 Vol 18, Issue 870
DOI: 10.1126/scisignal.adv9441

Annalisa M. VanHook

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org

L. Gu, Y. Zhu, S. P. Nandi, M. Lee, K. Watari, B. Bareng, M. Ohira, Y. Liu, S. Sakane, R. Carlessi, C. Sauceda, D. Dhar, S. Ganguly, M. Hosseini, M. G. Teneche, P. D. Adams, D. J. Gonzalez, T. Kisseleva, Liver Cancer Collaborative, J. E. E. Tirnitz-Parker, M. C. Simon, L. B. Alexandrov, M. Karin, FBP1 controls liver cancer evolution from senescent MASH hepatocytes. Nature 637, 461-469 (2025).

代謝スイッチが、損傷した肝臓において肝細胞が老化を回避し、腫瘍を形成することを可能にする。

肝臓における脂肪の蓄積は慢性の炎症を引き起こし、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)につながる。この疾患は、肝機能障害や線維症をもたらし、肝細胞がん(HCC)発症リスクを上昇させる。しかしMASHは、肝細胞の複製老化も誘導し、これはHCCのリスク上昇と明らかに矛盾する。ヒトHCC腫瘍検体の解析と、細胞株、肝細胞およびMASHマウスモデルでの実験により、Guらは、老化肝細胞が細胞周期停止を回避し、腫瘍を形成することを可能にする代謝スイッチを同定した。HCCは、腫瘍抑制性転写因子p53の減少(腫瘍にp53をコードする遺伝子の変異がない場合でも)およびp53転写標的であるフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ1(FBP1)の減少と関連があった。FBP1は、糖新生とキナーゼAKTの不活性化を促進する酵素であり、その欠損によりヒトでは脂肪肝が生じる。p53はHCCにおいて減少したが、MASHにより誘導される肝細胞老化はp53に依存する。マウスでは、食事誘発性のMASHがDNA損傷を引き起こし、初期にはp53、FBP1および老化マーカーを増加させた一方、ストレス応答性転写因子NRF2を減少させた。しかし、疾患の進行とともにp53、FBP1および老化マーカーは減少し、一方NRF2は増加した。Fbp1を肝臓特異的に欠損したマウスを用いた実験では、FBP1は、p53を標的とするユビキチンリガーゼMDM2のAKTを介する活性化を阻害することによってp53を安定化させ、老化関連代謝に関連する遺伝子の発現を促進することが示された。FBP1欠損により、MASHマウスにおいてDNA損傷が増加し、HCCの発症が早まった。FBP1欠損肝細胞では、老化を誘導する刺激に対する抵抗性が認められ、NRF2およびAKT活性化が増加した。マウス肝臓においてNRF2を活性化すると、FBP1分解、AKT活性化、p53分解が促進され、in vivoで老化肝細胞においてAKTとNRF2の両方を再活性化すると、これらの細胞は細胞周期に再進入し、腫瘍を形成することが可能になった。以上の結果は、MASHによって誘導される肝細胞老化が、慢性的な代謝ストレスにより乗り越えられ、損傷した細胞の増殖が促進される過程の複雑なスイッチを明らかにしている。

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