- ホーム
- 感覚ニューロンから代謝への圧力
感覚ニューロンから代謝への圧力
Metabolic pressure from sensory neurons
SCIENCE SIGNALING
11 Mar 2025 Vol 18, Issue 877
DOI: 10.1126/scisignal.adx2289
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org
F. S. Passini, B. Bornstein, S. Rubin, Y. Kuperman, S. Krief, E. Masschelein, T. Mehlman, A. Brandis, Y. Addadi, S. Huri-Ohev Shalom, E. A. Richter, T. Yardeni, A. Tirosh, K. De Bock, E. Zelzer, Piezo2 in sensory neurons regulates systemic and adipose tissue metabolism. Cell Metab. 10.1016/j.cmet.2024.12.016, (2025).
感覚ニューロン集団の機械刺激感受性イオンチャネルが熱産生組織の機能を抑制する
脂質の形でエネルギーを貯蔵している白色脂肪組織とは対照的に、褐色脂肪は「熱産生」と呼ばれるプロセスによってエネルギーを熱として逃がしている。とはいえ、白色脂肪組織を誘導して褐色脂肪の熱発生特性の一部を獲得させ、ベージュ脂肪にすることは可能である。褐色脂肪の機能と白色脂肪組織のベージュ化はいずれも、交感神経ニューロンから放出されるノルエピネフリンにより刺激される。Passiniらは、感覚ニューロン集団が熱産生組織の機能と発生を制御することにより全身の代謝に影響することを見いだした。TrkC陽性感覚ニューロンは、その発生のためには転写因子Runx3を必要とし、さらにCa2+結合タンパク質であるパルブアルブミンと機械刺激感受性チャネルPiezo2を多く含んでいる。Runx3を欠損しているまたはパルブアルブミン陽性感覚ニューロンの除去により体重が低下しているマウスに通常飼料を給餌したとき、対照マウスと比べ、体脂肪率は低下し、グルコースとインスリンに関連する代謝指標が改善していた。さらに、パルブアルブミン陽性感覚ニューロンにPiezo2欠損を導入したとき、これらの表現型への影響が再現されたが、高閾値の機械刺激感受性ニューロンにPiezo2欠損を導入したときは再現されなかった。Piezo2コンディショナルノックアウトマウスに高脂肪食を給餌したとき、対照マウスと比べて獲得された体脂肪は少なく、脂肪肝は減少し、グルコースとインスリンに関連する代謝指標が改善していた。これらのマウスでは、褐色脂肪細胞および誘導性ベージュ脂肪組織におけるノルエピネフリン含有量、グルコースの取り込み、ミトコンドリアDNAおよび呼吸の増加が認められた。標識実験から、褐色脂肪およびベージュ脂肪細胞は、TrkC、Runx3、パルブアルブミン、Piezo2のmRNAまたはタンパク質陽性の感覚ニューロンにより神経支配されていることが示された。以上から著者らは、中枢神経系は、TrkC陽性感覚ニューロンのPiezo2により検出される組織張力の変化から、褐色およびベージュ脂肪細胞の活性化状態に関する情報を受けとっていると推測している。