隠れたポケットの話

Tales from the cryptic pocket

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SCIENCE SIGNALING
18 Mar 2025 Vol 18, Issue 878
DOI: 10.1126/scisignal.adx4130

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.

Corresponding author. Email: jfoley@aaas.org

V. A. Rangari, E. S. O’Brien, A. S. Powers, R. A. Slivicki, Z. Bertels, K. Appourchaux, D. Aydin, N. Ramos-Gonzalez, J. Mwirigi, L. Lin, E. Mangutov, B. L. Sobecks, Y. Awad-Agbaria, M. B. Uphade, J. Aguilar, T. N. Peddada, Y. Shiimura, X.-P. Huang, J. Folarin-Hines, M. Payne, A. Kalathil, B. R. Varga, B. K. Kobilka, A. A. Pradhan, M. D. Cameron, K. K. Kumar, R. O. Dror, R. W. Gereau IV, S. Majumdar, A cryptic pocket in CB1 drives peripheral and functional selectivity. Nature 10.1038/s41586-025-08618-7 (2025).

I. R. Greig, R. A. Ross, Designer cannabinoids for effective pain relief. Nature 10.1038/d41586-025-00546-w (2025).

合成カンナビノイドがCB1シグナル伝達をGタンパク質に偏向させ、マウスにおいて耐性を生じることなく効果的な疼痛緩和を導く。

カンナビノイド受容体の合成アゴニストは、疼痛の動物モデルにおいて鎮痛効果を示すが、中枢神経系(CNS)における精神活性作用と耐性の発現のために、慢性疼痛の治療薬としての臨床での使用は妨げられている。オピオイド受容体と同様に、カンナビノイド受容体はGタンパク質共役受容体(GPCR)であり、結合するリガンドの種類に応じて、鎮痛効果を媒介するGタンパク質または耐性を促進するβ-アレスチンタンパク質を介してシグナルを伝達する。これまでの研究では、μ-オピオイド受容体のコア内の保存された残基Asp2.50を標的にすると、受容体–β-アレスチンシグナル伝達の活性が低下することが示されていた。Rangariらは、強力なアゴニストであるMDMB-Fubinaca(FUB)と結合したカンナビノイド受容体CB1の分子動力学シミュレーションを実施することにより、Asp2.50は隠れたポケットに存在し、オルソステリックな結合部位にリガンドが結合すると一過性に開くことを明らかにした。著者らは、FUBテンプレートから新たなCB1リガンドを設計した。リード化合物のVIP36には、正電荷をもつ官能基を含む可動性リンカーが存在し、オルソステリック部位から伸びてAsp2.50と結合した。構造および機能解析により、CB1のこれまで特定されていなかった活性コンホメーションが明らかになり、VIP36はGタンパク質に偏向したリガンドであることが示された。マウスを用いた薬物動態試験により、脳浸透性を有するFUBと比較して、VIP36は末梢により限局することが示され、これはリンカーに正荷電基が存在するためであると考えられた。VIP36は炎症性および神経障害性疼痛のマウスモデルにおいて鎮痛効果を示し、この効果は末梢のCB2受容体ではなくCB1受容体によって媒介された。FUB投与マウスと比較して、VIP36投与マウスでは耐性の徴候は認められなかった。さらに、VIP36は治療用量でCNSのCB1受容体を活性化しなかった。解説記事でGreigとRossが論じているように、これらの結果は、CB1の隠れたポケットを標的にすることにより、カンナビノイド系が開き、疼痛緩和が得られる可能性があることだけでなく、この戦略を他のGPCRに応用することで、より効果的な薬剤を設計できる可能性があることも示唆している。

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