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- 転移性前立腺がんにおいてキナーゼPLK1は、抗アンドロゲン剤エンザルタミドに対するヘッジホッグシグナル伝達依存性の耐性を促進する
転移性前立腺がんにおいてキナーゼPLK1は、抗アンドロゲン剤エンザルタミドに対するヘッジホッグシグナル伝達依存性の耐性を促進する
The kinase PLK1 promotes Hedgehog signaling–dependent resistance to the antiandrogen enzalutamide in metastatic prostate cancer
SCIENCE SIGNALING
18 Mar 2025 Vol 18, Issue 878
DOI: 10.1126/scisignal.adi5174
Qiongsi Zhang1, †, Jia Peng1, †, Yanquan Zhang1, Jinghui Liu1, Daheng He2, Yue Zhao3, Xinyi Wang1, Chaohao Li1, Yifan Kong1, Ruixin Wang1, Fengyi Mao1, Chi Wang2, Qing Wang1, Min Zhang1, Jianlin Wang1, Hsin-Sheng Yang1, 2, *, Xiaoqi Liu1, 2, *
- 1 Department of Toxicology and Cancer Biology, University of Kentucky, Lexington, KY 40536, USA.
- 2 Markey Cancer Center, University of Kentucky, Lexington, KY 40536, USA.
- 3 Gilbert S. Omenn Department of Computational Medicine and Bioinformatics, University of Michigan, Ann Arbor, MI 48109, USA.
- † These authors contributed equally to this work.
- * Corresponding author. Email: xiaoqi.Liu@uky.edu (X.L.); hyang3@uky.edu (H.-S.Y.)
Editor's summary
前立腺がんにおける腫瘍抑制因子PDCD4の存在量は、抗アンドロゲン剤(別名、アンドロゲン受容体阻害剤)エンザルタミドに対する反応と逆相関している。Zhangらは、PDCD4が有糸分裂キナーゼPLK1により抑制され、このことがアンドロゲンとは独立した細胞の生存経路の活性を可能にしていることを見いだした。前立腺がん細胞株においてPLK1は、PDCD4の分解を促進してc-MYCのブレーキを解除し、ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達および代謝経路の活性化を刺激して、アンドロゲン受容体シグナル伝達に対する細胞の依存性を低減させ、それによりエンザルタミドに対する感受性を低下させた。担がんマウスにHh経路の阻害薬であるビスモデギブを投与すると、エンザルタミドに対する感受性が回復した。これは、患者において有効な戦略である可能性を示唆している。—Leslie K. Ferrarelli
要約
転移性去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の患者の治療には、第二世代アンドロゲン受容体阻害剤(別名、抗アンドロゲン剤)であるエンザルタミドが使用されている。しかし、腫瘍がエンザルタミドに対する耐性を獲得することは少なくない。腫瘍進展とエンザルタミドに対する耐性は、腫瘍抑制因子PDCD4の存在量が低いことと関連している。正常に分裂している細胞では、キナーゼPLK1の存在量が高いときPDCD4の存在量は低い。この研究でわれわれは、PLK1がPDCD4に働き培養下およびマウス体内のCRPCエンザルタミドに対する耐性を促進していること、また、この機構から有効な併用療法を明らかできることを見いだした。PLK1はPDCD4をSer239部位でリン酸化してこれを分解し、その結果としてc-MYCによるヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達の転写活性化を誘導した。Hhシグナル伝達は、薬物およびステロイドホルモンの代謝クリアランスを促進する酵素であるUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ2B15(UGT2B15)を誘導することで、腫瘍細胞の増殖および幹細胞性を支持している。そのためこの経路は、アンドロゲン受容体依存性を回避することができ、それによりエンザルタミドに対する細胞感受性を低下させると考えられる。UGT2B15をノックダウンすると、エンザルタミドに誘導される細胞のアポトーシスおよび増殖停止がPDCD4依存的に増強した。エンザルタミド耐性の培養細胞およびin vivoの異種移植モデルにおいて、エンザルタミドと、臨床的に承認されているHh経路阻害薬であるビスモデギブを併用することで、細胞増殖が阻害されアポトーシスが促進した。これらの知見から、PLK1を介したエンザルタミド耐性の機構が明らかとなり、前立腺がんにおいてこの耐性を克服するための治療戦略候補が示唆された。