神経炎症の経鼻治療

Treating neuroinflammation through the nose

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SCIENCE SIGNALING
25 Mar 2025 Vol 18, Issue 879
DOI: 10.1126/scisignal.adx5434

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

S. Izzy, T. Yahya, O. Albastaki, H. Abou-El-Hassan, M. Aronchik, T. Cao, M. Garcia De Oliveira, K.-J. Lu, T. G. Moreira, P. da Silva, M. L. Boucher, L. C. Beauchamp, D. S. LeServe, W. Nogueira Brandao, A. C. Durão, T. Lanser, F. Montini, J.-H. Lee, J. D. Bernstock, M. Kaul, G. Pasquarelli-do-Nascimento, K. Chopra, R. Krishnan, R. Mannix, R. M. Rezende, F. J. Quintana, O. Butovsky, H. L. Weiner, Nasal anti-CD3 monoclonal antibody ameliorates traumatic brain injury, enhances microglial phagocytosis and reduces neuroinflammation via IL-10-dependent Treg–microglia crosstalk. Nat. Neurosci. 28, 499–516 (2025).

D. M. Cairns, B. M. Smiley, J. M. Smiley, Y. Khorsandian, M. Kelly, R. F. Itzhaki, D. L. Kaplan, Repetitive injury induces phenotypes associated with Alzheimer’s disease by reactivating HSV-1 in a human brain tissue model. Sci. Signal. 18, eado6043 (2025).

脳損傷後に経鼻投与される抗体が神経保護的な抗炎症反応を誘導する。

神経炎症は、神経変性や認知症を含む、外傷性脳損傷(TBI)後の神経病理の主な原因である(本誌archivesのCairnsらの記事参照)。Izzyらは、マウスにおいて中等度から重度のTBI後に発症した神経炎症が、T細胞表面タンパク質CD3に対する抗体(aCD3)の経鼻投与により軽減することを見いだした。皮質脳挫傷後6時間以内のマウスにaCD3を経鼻投与することで、脳内の細胞死およびグリアの活性化が低減し、動物の認知機能および運動機能が改善した。同様に、迅速なaCD3投与により末梢循環に分泌される炎症促進性サイトカイン量が減少し、抗炎症性サイトカインであるIL-10の量が増加した。aCD3を投与したTBIマウスにおいて、ミクログリア(脳常在マクロファージ)は、IL-10を産生する制御性T細胞(Treg細胞)に依存する形で、全体的に炎症性が低く恒常性の高い表現型に変化した。局所および末梢のTreg細胞数は、いずれもaCD3投与の数日以内に増加した。aCD3投与マウスから単離したTreg細胞を移植したTBIマウスでは、aCD3投与TBIマウスで認められたものと同様の分子的、細胞的および行動学的な影響が認められた。一方、Treg細胞を減少させたり、IL-10を阻害したりすることで、病理学的転帰が悪化した。これらの知見は、この経鼻投与抗体の適時投与は、TBI後の脳内の免疫応答を調節し、損傷を著しく抑制して機能を維持させることを示している。種々の認知神経学的疾患および後遺症における神経炎症の役割を考えると、今回の非侵襲的かつ広く利用できるアプローチは、幅広い疾患の治療に利用できると考えられる。

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