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複雑な複合体をよりわかりやすく
Making complexes less complicated
SCIENCE SIGNALING
22 Apr 2025 Vol 18, Issue 883
DOI: 10.1126/scisignal.ady2914
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: jfoley@aaas.org
F. P. Gomes, K. R. Durbin, K. Schauer, J. C. Nwachukwu, R. R. Kobylski, J. W. Njeri, C. P. Seath, A. J. Saviola, D. B. McClatchy, J. K. Diedrich, P. T. Garrett, A. B. Papa, I. Ciolacu, N. L. Kelleher, K. W. Nettles, J. R. Yates III, Native top-down proteomics enables discovery in endocrine-resistant breast cancer. Nat. Chem. Biol. 10.1038/s41589-025-01866-8 (2025).
混合プロテオミクスのプラットフォームが乳がんのプロテオームに新たな深みを与える。
多くの細胞機能はタンパク質複合体によって調節されており、そのような複合体を構成する個々のタンパク質はスプライシングイベント、変異、翻訳後修飾が原因で生じてさまざまに異なる、いわゆる「プロテオフォーム」として存在する。ボトムアッププロテオミクスがタンパク質消化で生じたペプチドを質量分析(MS)手法で解析するのとは対照的に、ネイティブMSはタンパク質複合体の構造を決定し、トップダウンプロテオミクスはプロテオフォームの特徴を明らかにする。Gomesらは、この後者2つを組み合わせた手法を考案してネイティブトップダウンプロテオミクス(nTDP)と名づけ、エストロゲン受容体α(ERα)陽性MCF-7乳がん細胞株からの抽出物と上皮増殖因子受容体(EGFR)を発現するMCF-7細胞からの抽出物に含まれるタンパク質複合体(コンプレクソフォームと名づけた)を発見するために用いた。これらの細胞を比べたのは、EGFRシグナル伝達の亢進がエストロゲンシグナル伝達を遮断する薬物タモキシフェンに対する耐性と関連するからである。17のタンパク質集合体から104のコンプレクソフォームを同定し、そのうちの一部である解糖系酵素TPIの二量体、サイトカインMIFの集合体、抗酸化酵素SOD1の二量体などについて、さらに詳しく特徴を調べた。この解析によって、核細胞質間輸送を調節して乳がん細胞の増殖を阻害する二量体の低分子グアノシントリホスファターゼである核輸送因子2(NUTF2)が26の異なるプロテオフォームとして存在することも明らかになった。二量体NUTF2コンプレクソフォームはMCF-7–EGFR細胞ではMCF-7細胞よりも存在量が少なく、NUTF2のリジンのアセチル化パターンも細胞種間で異なった。より詳しい研究により、EGFRシグナル伝達がNUTF2複合体の分解を誘導し、ERα活性を阻害する能力を用いて干渉することも示された。まとめると、これらの知見は、この新規プラットフォームを治療標的となりうる内在性タンパク質複合体の同定に使用できる可能性を示唆している。