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神経科学
神経細胞の小胞体ストレス

NEUROSCIENCE
Neuronal ER Stress

Editor's Choice

Sci. Signal., 14 December 2010
Vol. 3, Issue 152, p. ec378
[DOI: 10.1126/scisignal.3152ec378]

Nancy R. Goug

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

カルシウムはニューロンのシグナル伝達において重要な役割を果たす。カルシウムの供給源の1つは小胞体(ER)であり、小胞体の 機能障害は神経疾患と関連がある。2つのグループが、ニューロンの小胞体ストレスに対する応答機構について検討している。Narayananらは、細胞内 カルシウムストアの枯渇によってニューロンの興奮性の低下が誘発され、この低下は、マウス海馬スライスにおいて、細胞体部に特異的に限局することを発見し た。これは、細胞ストレスに対する神経保護応答の表れではないかと著者らは提唱している(SchmidtとEhrlichを参照)。関連する論文において Higoらは、小胞体ストレスが、小胞体に常在するカルシウム放出チャネルであるイノシトールトリスリン酸受容体(IP3R)の活性を障害することによって、ニューロン内のカルシウムシグナル伝達を変化させること、また、IP3R1の存在量が減少すると、小胞体ストレスに応答する神経細胞死が増加することを見いだした。
Narayananらは、小胞体のカルシウムポンプ阻害薬を用いて細胞内カルシウムストアを枯渇させ、海馬スライスにおいてニューロンの電気生理学的特性 を記録した。ストア枯渇によって、ニューロンの興奮性の持続的な低下が引き起こされ、この低下は細胞体周囲部では検出されるが、樹状突起では検出されない ことがわかった。電気生理学的な変化から、非選択的陽イオン電流の1つであるh電流の増大が示唆され、ニューロンの興奮性の低下はhチャネル阻害薬の添加によって阻止された。予測外にも、ニューロンの興奮性の低下は、脱分極電位でより大きく、これはh電流の既知の特性の典型ではない。3次元のマルチコンパートメントのニューロンモデルを用いて行ったシミュレーションでは、細胞体の機能的なh電 流の増大が、チャネルの開口特性の脱分極シフトを伴って、細胞体周囲の興奮性低下を説明できる可能性が示唆された。このような予測は、スライスを用いて実 験的に証明された。興奮性の低下は、カルシウムキレート剤によって阻止されたことから、細胞内カルシウムの増大を必要とすることが示唆された。興奮性低下 は電位依存性カルシウムチャネルの阻害によって阻止されなかったが、IP3Rまたはストア作動性カルシウムチャネルの選択的アンタ ゴニストによって阻止されたことから、これらのチャネルは必要であった。プロテインキナーゼAの阻害によっても興奮性の低下が阻止されたことから、ストア 作動性カルシウム応答の活性化と、小胞体カルシウムの放出によって、h電流の既知の調節因子であるPKAが関与する経路が誘導されることが示唆された。ニューロンの活動の本質的な低下が、ストア枯渇を引き起こす病的状態に応答する防御機構として働くのではないかと著者らは提唱している。

Higoらは、小胞体ストレスに対するニューロンの応答におけるIP3R1の役割について検討した。Higoらは、糖鎖修飾阻害薬ツニカマイシン、還元剤ジチオスレイトール(DTT)、あるいは小胞体カルシウムポンプ阻害薬タプシガルジンを用いて、小胞体ストレスを誘導した。マウスにツニカマイシンを注射すると、IP3R1+/-マウスの脳において、野生型マウスの脳に比べ、核濃縮(アポトーシス)を起こしたプルキンエニューロンが増加し、培養HeLa細胞では、IP3R1のノックダウンによって、3つの小胞体ストレス誘導因子のいずれにも応答して、アポトーシス細胞の増加がみられた。神経芽腫細胞株(N1E-115)と初代培養神経細胞を用いたカルシウムイメージング研究によって、DTTまたはツニカマイシンがIP3R1活性の低下を引き起こすことが示された。複数の実験パラダイムによって、(細胞株、初代培養神経細胞、脳において)小胞体シャペロンGRP78が、IP3R1の内腔ドメインと相互作用して、別の小胞体タンパク質ERp44とIP3R1との結合に関して競合することが示唆された。神経変性疾患の一種であるハンチントン病のマウスモデルでは、免疫共沈降実験によって、IP3R1とGRP78の相互作用がさまざまな脳領域で低下していることが示された。培養HeLa、COS-7、N1E-115細胞を用いた実験では、GRP78のノックダウンによって、IP3R1の活性が低下するが、IP3R2またはIP3R3は抑制されないことが示された。架橋実験およびゲル濾過実験によって、GRP78が活性に必要な四量体受容体の集合を促進することが示唆された。さらに、ツニカマイシンまたはタプシガルジンを用いた実験では、小胞体ストレスが四量体IP3R1量を減少させることが示された。このように、小胞体ストレスは、IP3R1の適切なサブユニット集合に必要な小胞体シャペロンGRP78との相互作用を抑制することによって、IP3R1によるカルシウムシグナル伝達を低下させると考えられる。これら2つの研究を合わせると、小胞体のカルシウムシグナル伝達は、小胞体ストレスに対するニューロンの応答において重要な役割を果たすことが示唆される。

R. Narayanan, K. J. Dougherty, D. Johnston, Calcium store depletion induces persistent perisomatic increases in the functional density of h channels in hippocampal pyramidal neurons. Neuron 68, 921-935 (2010). [Online Journal]

T. Higo, K. Hamada, C. Hisatsune, N. Nukina, T. Hashikawa, M. Hattori, T. Nakamura, K. Mikoshiba, Mechanism of ER stress-induced brain damage by IP3 receptor. Neuron 68, 865-878 (2010). [Online Journal]

S. Schmidt, B. E. Ehrlich, Unloading intracellular calcium stores reveals regionally specific functions. Neuron 68, 806-808 (2010). [Online Journal]

N. R. Gough, Neuronal ER Stress. Sci. Signal. 3, ec378 (2010).

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2010年12月14日号

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