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免疫学
遊離の条件
Immunology
Terms of Disengagement
Sci. Signal., 1 March 2011
Vol. 4, Issue 162, p. ec59
[DOI: 10.1126/scisignal.4162ec59]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
ナチュラルキラー(NK)リンパ球はT細胞やB細胞と同様に、その受容体に対するリガンド部位において複雑で動的な高分子構造を形成する。しかしNK細胞には、免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM:感染を受けた組織や損傷を受けた組織の細胞死を促す役割を担う)を含む細胞内タンパク質と会合する興奮性受容体と、免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM:自己タンパク質に由来するペプチドに結合するクラスI主要組織適合抗原複合体(MHC)を認識することによって健全な組織の細胞溶解を防ぐ)と会合する抑制性受容体の両方が備わっている。Abeyweeraらは、MHC HLA-Cw3に結合しているインポーチンα由来のペプチド(ペプチドの8番目アミノ酸がセリン(Ser)またはチロシン(Tyr))によるヒトNK細胞株(NKL)のITIM含有受容体KIR2DL2の活性化の影響について検討した。HLA-Cw3(Ser)は、活性二重層上に播種されたNKL細胞のサイトカイン分泌、脱顆粒、細胞の伸展、およびカルシウム流入を抑制したのに対して、HLA-Cw3(Tyr)はそのような作用を示さなかった。著者らはさらに、ケージ化したHLA-Cw3(Ser)(これをHLA-Cw3(cage)と呼んだ)を設計し、このKIR2DL2リガンドを光刺激によって二重層から放出させると、接触部位周囲に環状にKIR2DL2の微小クラスターが速やかに形成され、アクチン細胞骨格の再構築が起こり、二重層からの細胞の退縮が誘発されることを明らかにした。KIR2DL2のITIM欠損変異体を発現している細胞を光刺激したとき、またはホスファターゼSHP1とSHP2の阻害剤の存在下で光刺激したとき、微小クラスターは形成されるが細胞の退縮やアクチンの再構築は起らなかった。ITAM受容体であるNKG2Dを活性化すると、2種類の異なるクラスターが形成された。1つは染色部位中央近くに生じる比較的不動性のクラスターであり、このことは運動性の周辺クラスターはシグナル伝達部位であったことを示唆していた。活性二重層上に播種された細胞でHLA-Cw3(cage)を光刺激すると、末梢のNKG2Dクラスターの形成は抑制されたが、不動性のプールは影響を受けなかった。活性二重層中に存在したHLA-Cw3(Ser)はカルシウムシグナル伝達の開始を抑制したが、光刺激によるHLA-Cw3(cage)の放出は持続的なカルシウムシグナル伝達を抑制することはなかった。このように、抑制性シグナル伝達によって誘発される局所的な遊離が、一部の接触部位では細胞溶解を抑制するのに対して、他の接触部位ではカルシウム伝達と細胞溶解が可能であることの機構であるかもしれない。
T. P. Abeyweera, E. Merino, M. Huse, Inhibitory signaling blocks activating receptor clustering and induces cytoskeletal retraction in natural killer cells. J. Cell Biol. 192, 675-690 (2011). [Abstract][Full Text]
N. R. Gough, Terms of Disengagement. Sci. Signal. 4, ec59 (2011).