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宿主病原体相互作用
ショックを和らげる

Host-Pathogen Interactions
Degraded for Shock Value

Editor's Choice

Sci. Signal., 29 March 2011
Vol. 4, Issue 166, p. ec89
[DOI: 10.1126/scisignal.4166ec89]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

敗血症は、致命的なことがある微生物感染に対する全身性炎症応答である。敗血症に共通するトリガーは細菌産物のリポ多糖(LPS)であ。LPSはToll様受容体4(Toll-like receptor 4:TLR4)に結合して炎症シグナル伝達経路を活性化する。Puneetら(Smith and Maizelsも参照)は、寄生性の線虫Acanthocheilonema viteaeによって分泌される糖タンパク質ES-62がTLR4の細胞内移行を誘導することを見出した。健常人由来のマクロファージをES-62と前もってインキュベートすると、LPSに対する炎症応答が低下した。これは、転写因子の核因子κB(nuclear factor κB:NF-κB)の活性化の低下と、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)、インターロイキン1β(interleukin-1β:IL-1β)、IL-6などの炎症性エフェクターの放出の減少に表れていた。さらに、ES-62で処理したマクロファージは、TLR2アゴニストのBLPに対する炎症応答の低下を示したが、TLR2の表面存在量は変化しなかった。TLRシグナル伝達におけるアダプタータンパク質として機能するMyD88(myeloid differentiation marker 88、ミエロイド分化マーカー88)の存在量は、ES-62で処理したマイクロファージでは減少していた。敗血症患者由来の好中球およびマクロファージでは、ES-62はTLR4の表面存在量とMyD88の総量を減少させ、LPSやBLPに応答する多様な炎症メディエーターの放出を減少させた。ES-62で処理したヒトマクロファージでは、TLR4とMyD88が、リソソームマーカーLAMP-1やオートファゴソームマーカーLC3を含有する小胞と共局在していた。このことは、TLR4とMyD88がオートファゴソーム内で分解されたことを示唆する。実際に、ES-62によって誘導されるMyD88存在量の減少は、オートファジーを抑制するような様々な処置によって減弱された。ES-62による前処理によって、マウスはLPSが誘導する内毒血症のほか、多微生物性敗血症を誘発するヒト敗血症のモデルである致死性の腸管穿孔モデル(cecal ligation and puncture:CLP)で生存することができた。後者のモデルでは、ES-62で処理したマウスでは肺と肝臓に対する炎症損傷の低下と炎症メディエーターの放出の減少が観察されたが、細菌感染に対する攻撃能力に変化はなかった。多微生物性敗血症におけるES-62前処理の保護作用は、TLR4またはオートファゴソーム形成に関与する2つのタンパク質ATG5またはATG7の欠損マウスで消失した。CLPの1時間後にES-62で処理したマウスは、CLPで誘導される多微生物性敗血症においても生存し、その生存率は、CLP後のより時間の経過した時点(6時間および8時間)にES-62を投与することによりさらに改善された。CLP後6時間の時点の死亡率は、敗血症患者に併用投与される抗菌薬のアモキシシリンおよびクラブラン酸とともにES-62を投与すると解消された。このように、ES-62は、TLR4とNyD88をオートファゴソームへと移行させることによってTLRシグナル伝達を抑制し、敗血症の治療として開発される可能性がある。

P. Puneet, M. A. McGrath, H. K. Tay, L. Al-Riyami, J. Rzepecka, S. M. Moochhala, S. Pervaiz, M. M. Harnett, W. Harnett, A. J. Melendez, The helminth product ES-62 protects against septic shock via Toll-like receptor 4-dependent autophagosomal degradation of the adaptor MyD88. Nat. Immunol. 12, 344-351 (2011). [PubMed]

K. A. Smith, R. M. Maizels, Defeating sepsis by misleading MyD88. Nat. Immunol. 12, 284-286 (2011).[PubMed]

W. Wong, Degraded for Shock Value. Sci. Signal. 4, ec89 (2011).

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2011年3月29日号

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