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がん生物学
代謝プログラムを変える

Cancer Biology
Shifting the Metabolic Program

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 June 2011
Vol. 4, Issue 176, p. ec157
[DOI: 10.1126/scisignal.4176ec157]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

多くのがん細胞では代謝が変化しており、非がん性細胞と比較してO2消費の低下がみられ、十分な酸素の存在下でも乳酸が産生される。この異常な代謝は、解糖酵素であるピルビン酸キナーゼのM2アイソフォーム(PKM2)の発現を伴う(Tennant参照)。Luoらは、PKM2が、その生化学的な活性とは無関係に、低酸素誘導因子1(HIF-1)との相互作用を通して、好気的解糖を促進することを示し、この説明に興味深いひねりを加えている。HIF-1は、低酸素条件下で誘導される転写因子であり、酸化的代謝から解糖代謝への移行などのように、がん生物学の様々な側面に関与する遺伝子群の転写を亢進させる。低酸素によってPKM2をコードするmRNAの存在量が増大し、この増大がHIF-1αに依存することを明らかにした後に、著者らはHIF-1の標的としてPKM2遺伝子を同定した。著者らは、PKM2遺伝子に低酸素応答性因子(HRE)結合部位の候補を同定し、HIF-1αがこの領域と会合していることを、クロマチン免疫沈降解析とPKM2 HREを含むレポーター遺伝子のHIF-1α依存的活性化によって示した。免疫ブロット解析によって、核内のPKM2の存在が明らかになり、プロテオミクス・スクリーニングによって、PKM2がHIF-1αと結合することが示唆された。この相互作用は、共免疫沈降法およびin vitroプルダウンアッセイによって確認された。タグ付加型PKM2のトランスフェクションによってHIF-1レポーターの転写が促進されたのに対して、PKM2のノックダウンによって転写が低下した。PKM2はHIF-1の存在量には影響せず、むしろ、標的遺伝子のHREへのHIF-1αの結合、転写コアクチベーターp300の動員、そして、標的遺伝子のトランス活性化を促進した。変異解析によって、PKM2の触媒活性はHIF-1αのトランス活性化の促進には必要ないことが示された。PKM2がプロリンヒドロキシ化モチーフを含むことに着目し、著者らは、質量分析法と免疫ブロット解析を組み合わせて、PKM2のプロリンのヒドロキシ化を確認した。プロリンヒドロキシラーゼ3(PHD3)に依存するヒドロキシ化によって、PKM2を介するHIF-1αのトランス活性化が増強された。実際に、PKM2とPHD3は標的遺伝子のHREにおいてHIF-1αと共存していた。PKM2またはPHD3をノックダウンすると、HIF-1標的遺伝子の発現が低下した。さらに、PHD3ノックダウンによって、腎臓がん細胞におけるO2消費が増大し、グルコースと乳酸の含有量が減少した。よって、著者らは、PKM2がHIF-1とともに正のフィードバックループに関与し、解糖代謝への移行を促進すると提案する。

W. Luo, H. Hu, R. Chang, J. Zhong, M. Knabel, R. O'Meally, R. N. Cole, A. Pandey, G. L. Semenza, Pyruvate kinase M2 is a PHD3-stimulated coactivator for hypoxia-inducible factor 1. Cell 145, 732-744 (2011). [PubMed]

D. A. Tennant, PK-M2 makes cells sweeter on HIF1. Cell 145, 647-649 (2011). [PubMed]

E. M. Adler, Shifting the Metabolic Program. Sci. Signal. 4, ec157 (2011).

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2011年6月7日号

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