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神経科学
PKRによって学習が困難になる
Neuroscienc
Learning Is Harder with PKR
Sci. Signal., 20 December 2011
Vol. 4, Issue 204, p. ec349
[DOI: 10.1126/scisignal.4204ec349]
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
P. J. Zhu, W. Huang, D. Kalikulov, J. W. Yoo, A. N. Placzek, L. Stoica, H. Zhou, J. C. Bell, M. J. Friedlander, K. Krnjevic(thesaurus), J. L. Noebels, M. Costa-Mattioli, Suppression of PKR promotes network excitability and enhanced cognition by interferon-γ-mediated disinhibition. Cell 147, 1384-1396 (2011). [Online Journal]
二本鎖RNA活性化プロテインキナーゼ(PKR)は、もともとはウイルスに対する免疫監視機構の一員として同定された。Zhuらは、PKRを欠損する(Pkr-/-)マウスの神経回路網では、野生型マウスの神経回路網と比べて活動が亢進していることを見出した。Pkr-/-マウスまたはPKR阻害薬(PKRi)を投与した野生型マウスの海馬スライスの電気生理学的解析によって、活動の亢進は、固有の興奮性の亢進にも興奮性神経伝達の亢進にも起因しない可能性が示唆された。そのかわりに、海馬スライスにおいては、抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の放出低下など、抑制性神経伝達の抑制が認められた。GABA作動性シナプス伝達が低下すると、学習と記憶に関連するシナプス可塑性の一種である長期増強(LTP)の誘導が促進される可能性がある。Pkr-/-マウスまたはPKRi投与野生型マウスの脳スライスにおいては、LTPの誘導が亢進していた。野生型マウスと比べて、Pkr-/-マウスでは、空間学習の増強、文脈的恐怖消去の加速、長期恐怖記憶の増強が認められた。さらに、後者の学習タイプは、野生型マウスにPKRiを投与することによって促進された。PKRがGABA作動性シナプス伝達を抑制する機構は、GABAの放出を低下させるサイトカインであるインターフェロン-γ(IFN-γ)をコードするmRNAの翻訳を抑制することである。Pkr-/-マウスの海馬スライスの興奮性増大は、IFN-γに対する抗体によって減弱した。さらに、PKRi投与は、Ifn-γ-/-マウスのスライスにおいてLTPの誘導を促進せず、Ifn-γ-/-マウスの長期恐怖記憶を増強しなかった。このように、PKRは、GABA作動性シグナル伝達のIFN-γを介する抑制を緩和することによって、抑制性神経伝達を促進する。
W. Wong, Learning Is Harder with PKR. Sci. Signal. 4, ec349 (2011).