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トランスクリプトームから推測される、SARS-CoV-2と宿主上皮細胞の相互作用のダイナミクス

Transcriptomics-inferred dynamics of SARS-CoV-2 interactions with host epithelial cells

Research Article

SCIENCE SIGNALING
26 Sep 2023 Vol 16, Issue 804
[DOI: 10.1126/scisignal.abl8266]

Lukas Adam1, †, Megan Stanifer2, 3, †, Fabian Springer1, Jan Mathony4, 5, 6, 7, Maik Brune8, Chiara Di Ponzio1, 9, Roland Eils1, 9, Steeve Boulant2, 3, 10, Dominik Niopek4, 5, 7, *, Stefan M. Kallenberger1, 11, 12, *

  1. 1 Health Data Science Unit, University Hospital Heidelberg and Center for Quantitative Analysis of Molecular and Cellular Biosystems (BioQuant), University of Heidelberg, Heidelberg 69120, Germany.
  2. 2 Department of Infectious Diseases, Virology, Heidelberg University Hospital, Heidelberg 69120, Germany.
  3. 3 Department of Molecular Genetics & Microbiology, College of Medicine, University of Florida, Gainesville, FL 32603, USA.
  4. 4 Department of Biology, Technical University of Darmstadt, Darmstadt 64287, Germany.
  5. 5 Center for Synthetic Biology, Technical University of Darmstadt, Darmstadt 64287, Germany.
  6. 6 BZH Graduate School, Heidelberg University, Heidelberg 69120, Germany.
  7. 7 Institute of Pharmacy and Molecular Biotechnology (IPMB), Faculty of Engineering Sciences, Heidelberg University, Heidelberg 69120, Germany.
  8. 8 Clinic of Endocrinology, Diabetology, Metabolism, and Clinical Chemistry, Central Laboratory, Heidelberg University Hospital, Heidelberg 69120, Germany.
  9. 9 Digital Health Center, Berlin Institute of Health (BIH) and Charité, Berlin 10178, Germany.
  10. 10 Research Group "Cellular polarity and viral infection" (F140), German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg 69120, Germany.
  11. 11 Division of Applied Bioinformatics (G200), German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg 69120, Germany.
  12. 12 National Center for Tumor Diseases, Department of Medical Oncology, Heidelberg University Hospital, Heidelberg 69120, Germany.

* Corresponding author. Email: dominik.niopek@tu-darmstadt.de (D.N.); stefan.kallenberger@bioquant.uni-heidelberg.de (S.M.K.)

These authors contributed equally to this work.

Editor's summary

SARS-CoV-2はウイルス標的薬と宿主免疫応答の両方からの回避に長けている。そのため、宿主細胞内の感染を支えるタンパク質とプロセスを標的とすることが、もう1つのアプローチである。Adamらは、宿主上皮細胞におけるSARS-CoV-2感染時点から細胞溶解時点までの転写動態のモデルを考案した。このモデルから、初期の抗ウイルス応答を媒介している宿主細胞のRNAおよびタンパク質合成機構が、ウイルスに速やかに取り入れられてウイルスの複製を下支えしていることが示唆された。細胞培養におけるウイルスの増殖は、モデルにおいてウイルス複製の支持に関係する複数の宿主細胞経路を標的としていた臨床的既承認薬ソラフェニブにより、効果的に抑制された。—Leslie K. Ferrarelli

要約

ウイルス-宿主間の相互作用から、感染治療のための効果的かつ選択的治療標的が見つかる可能性がある。本稿でわれわれはヒトCaco-2結腸がん細胞をモデルとして用い、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の複製のダイナミクスと、その感染に対する宿主細胞転写反応の統合解析を実施した。時間分解RNAシーケンシングから、細胞は感染後、抗ウイルス応答を媒介する炎症経路に関連する遺伝子を転写レベルで速やかに活性化し、その後、リボソームおよびミトコンドリア機能に関与する遺伝子発現が亢進することが示された。このことは、タンパク質の合成および細胞のエネルギー供給が速やかに変化することを示唆していた。その後、感染から24〜48時間という段階で、代謝プロセス(特に生体異物代謝と関連するプロセス)に関与する遺伝子発現が低下した。SARS-CoV-2の複製を組み込んだ数理モデリングから、SARS-CoV-2タンパク質は宿主の抗ウイルス応答を阻害すること、それによりウイルスの転写産物が宿主細胞の翻訳能力を上回ることが示唆された。宿主細胞において転写レベルでの増加を示すキナーゼ依存性経路を標的とすると、ウイルス複製の抑制という点で、ウイルスを標的とする阻害薬と同等の有効性があった。本モデル系で得られたこれらの知見から、SARS-CoV-2ウイルス-宿主間の相互作用の一連の流れが明らかになり、これは感染抑制のための薬剤の投与が可能な宿主経路の同定を促進すると考えられる。

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