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増殖促進性シグナル伝達におけるmerlin-Rac拮抗作用の形態学的調節
Morphological control of merlin-Rac antagonism in proliferation-promoting signaling
SCIENCE SIGNALING
20 May 2025 Vol 18, Issue 887
DOI: 10.1126/scisignal.adk0922
Byron G. Weiss1, 2, Justine M. Keth1, 2, Kushal Bhatt1, 2, Meghan Doyal1, 2, Klaus M. Hahn3, Jungsik Noh1, 2, Tadamoto Isogai1, 2, *, Gaudenz Danuser1, 2, *
- 1 Lyda Hill Department of Bioinformatics, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX 75390, USA.
- 2 Cecil H. and Ida Green Center for Systems Biology, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX 75390, USA.
- 3 Department of Pharmacology, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC 27599, USA.
- * Corresponding author. Email: tadamoto.isogai@utsouthwestern.edu (T.I.); gaudenz.danuser@utsouthwestern.edu (G.D.)
Editor's summary
低分子GTPアーゼRac1の機能獲得型変異は、特殊なタイプの抗がんキナーゼ阻害薬に応答する形で、腫瘍抑制因子merlinの不活性化と細胞増殖に関連するラメリポディア(葉状仮足)と呼ばれる細胞突起の持続的な形成を引き起こす。Weissらは、そのようなキナーゼ阻害薬のうちの1つで処理されたがん細胞で、変異型Rac1の活性とmerlinの不活性化がラメリポディア内の微小領域に局在することを明らかにした。merlinをラメリポディアから排除すると、merlinの不活性化は妨げられ、merlinはラメリポディアの形成とラメリポディア内の微小領域へのRac1の局在を制限することによってがん細胞の増殖を抑制した。これらの結果は、特定の増殖促進キナーゼを標的とする阻害薬に曝露されたがん細胞でmerlin不活性化ラメリポディアがどのように維持されるのかを説明するものである。—Wei Wong
要約
細胞辺縁にみられる薄い扇形の突起であるラメリポディアの伸展には、低分子GTPアーゼRac1の調節下で分枝状のアクチンネットワークが構築される必要がある。メラノーマ(黒色腫)では、機能亢進性P29S Rac1変異体は、キナーゼBRAFおよびMAPKを標的とする阻害薬に対する抵抗性と関連づけられているほか、(NF2にコードされている)腫瘍抑制因子merlinを異常に大きなラメリポディア内に隔離して不活性化することから、悪性度のより高い疾患にも関連づけられている。本稿でわれわれは、このようなmerlinが不活性化しているラメリポディアはどのように維持されているのかを、細胞形態とシグナル伝達動態の定量的生細胞イメージングによって調べた。そして、Rac1とmerlin活性がラメリポディア内の空間的に限定された範囲、すなわち微小領域で制御されることを明らかにした。増殖を抑制する腫瘍抑制因子としてのmerlinの役割には、ラメリポディアの伸長を阻害し、局所的にRac1シグナル伝達を阻害する能力が必要だった。逆に、ラメリポディア内でのmerlinの局所的な不活性化は、形態およびシグナル伝達へのこのような制限を解除し、増殖を亢進させた。このように、merlinとRac1は、形態学的および動的に調節される二重のネガティブフィードバックループ、すなわち増殖が困難な状況下でもメラノーマが分裂促進シグナル伝達を持続できるようにラメリポディアの伸長による適度な刺激を増幅して安定させることのできるシグナル伝達モチーフに組み込まれている。これは、細胞形態学的なプログラムと生化学的なシグナル伝達の協働によって急性の発がん能がどのように促進されるのかを例示している。