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新規鎮痛薬開発のためのタンパク質-タンパク質相互作用の探索
Exploring protein-protein interactions for the development of new analgesics
SCIENCE SIGNALING
8 Oct 2024 Vol 17, Issue 857
[DOI: 10.1126/scisignal.adn4694]
Alexandre Martins do Nascimento1, 2, Rauni Borges Marques1, 3, Allan Pradelli Roldão1, Ana Maria Rodrigues1, Rodrigo Mendes Eslava1, Camila Squarzoni Dale2, Eduardo Moraes Reis1, Deborah Schechtman1, *
- 1 Department of Biochemistry, Chemistry Institute, University of Sao Paulo, SP 05508-000, Brazil.
- 2 Laboratory of Neuromodulation of Experimental Pain (LaNed), Department of Anatomy, Institute of Biomedical Sciences, University of Sao Paulo, SP 05508-000, Brazil.
- 3 Interunit Graduate Program in Bioinformatics, University of Sao Paulo, SP 05508-000, Brazil.
- * Corresponding author. Email: deborah@iq.usp.br
Editor's summary
慢性疼痛の治療に現在利用できる薬物には限界があることから、新しい選択肢を見つけるための様々なアプローチが必要とされている。Nascimentoらはマウスおよびヒトの感覚神経組織で得られたデータを用いて、タンパク質結合ドメインの配列と構造によるタンパク質-タンパク質相互作用ネットワークを構築した。このネットワークから、既知の疼痛シグナル伝達複合体(PSD-95、NMDARなど)に加え、これまで未知であったペアの分子としてE3リガーゼCBLと増殖因子受容体FGFRおよびそのアダプターなどが示された。疼痛シグナル伝達においてこれらのペアが形成され機能する可能性は、侵害受容性ニューロンにおいてそれらが同時に検出されたことにより支持された。本研究の知見は、全般的な酵素活性ではなく選択的なタンパク質-タンパク質相互作用を標的とする鎮痛薬を開発するための、基盤となるものである。—Leslie K. Ferrarelli
要約
新規鎮痛薬の開発は困難なものである。これまでの薬物候補は、多数の薬物標的が疼痛伝達以外のシグナル伝達経路に関与していることで生じる副作用のために、その臨床的有用性は限定されることがしばしばであった。本稿でわれわれは、慢性疼痛の治療薬を開発するためのアプローチとして、疼痛シグナル伝達を媒介するタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)を標的とすることの可能性を検討した。低分子およびペプチドのPPIモジュレーターを同定するために使用するアプローチを検討し、それらモジュレーターがげっ歯類動物モデルにおいて疼痛様行動を低減できるかについて確認した。げっ歯類およびヒト組織の感覚神経組織から得られたデータを解析して関連シグナル伝達ネットワークを構築し、合成ペプチドと低分子のデザインに役立つであろう相互作用および相互作用ドメイン構造(確実なものと可能性のあるもの両方)を評価した。このリソースは、新規鎮痛薬開発のために検討しうるPPI、特にさまざまな増殖因子と神経伝達物質の足場タンパク質と受容体、イオンチャネルおよびその他の酵素の間のPPIを明らかにしている。CBLのプロリンリッチなカルボキシ末端ドメインとそのSH3ドメイン含有タンパク質パートナー(GRB2など)の相互作用を遮断してCBLのアダプター機能を標的にしたとき、疼痛関連増殖因子により誘導されるエンドソームシグナル伝達を阻害できる可能性がある。このアプローチをとった場合、他のドメインにより媒介され他の細胞機能に重要であるE3リガーゼの機能が損なわれることはない。高い選択性をもつであろうこのようなPPIモジュレーターの能力により、副作用が軽減され、臨床における疼痛管理が改善すると考えられる。