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神経科学
記憶の翻訳
Neuroscience
Translating Memories
Sci. Signal., 30 April 2013
Vol. 6, Issue 273, p. ec94
[DOI: 10.1126/scisignal.2004279]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. Khoutorsky, A, Yanagiya, C. G. Gkogkas, M. R. Fabian, M. Prager-Khoutorsky, R. Cao, K. Gamache, F. Bouthiette, A. Parsyan, R. E. Sorge, J. S. Mogil, K. Nader, J.-C. Lacaille, N. Sonenberg, Control of synaptic plasticity and memory via suppression of poly(A)-binding protein. Neuron 78, 298-311 (2013). [Online Journal]
記憶の細胞モデルは、長期増強(LTP)と呼ばれるシナプス可塑性イベントである。LTPは2つのフェーズに分けることができる。初期フェーズ(E-LTP)は、持続時間が2時間未満で、新たなタンパク質合成を必要とせず、後期フェーズ(L-LTP)は、何時間も継続可能であり、新たなタンパク質合成を必要とする。mRNAの翻訳は多様な機構を通して調節されており、そのような機構の1つが、標的mRNAのポリAテールとポリA結合タンパク質(PABP)の結合である。PAIP2AおよびPAIP2B(PAIP相互作用タンパク質2Aおよび2B)は、PABPの機能に干渉することによって翻訳を阻害する。Khoutorskyらは、マウスにおいて、脳内に豊富に含まれる型であるPAIP2Aの分解が、シナプスの活性と翻訳の亢進を関連づけ、学習と記憶に寄与していることを明らかにした。Paip2a-/-マウス由来の海馬切片は、野生型マウス由来の切片ではE-LTPを引き起こすのみであった刺激に応答してL-LTPを示し、野生型マウス由来の切片でL-LTPを引き起こした刺激に対してはL-LTPを示さなかった。これらの電気生理学的研究と一致して、行動記憶検査でも、Paip2a-/-マウスは、弱い訓練に応答して空間的長期記憶検査でより迅速な学習を示したが、強い訓練パラダイムを用いた長期間の恐怖条件付け文脈学習検査では学習障害を示した。培養ニューロンと海馬切片を用いた実験では、活性に依存したPAIP2A量の減少がみられ、カルシウム依存性プロテアーゼであるカルパインを薬理学的に阻害すると、PAIP2A量の減少が抑制された。また、カルパインに依存したPAIP2Aの減少は、文脈的恐怖条件付けパラダイムをテストされたマウスでも検出され、カルパイン阻害薬を注入すると、長期文脈的恐怖記憶が損なわれた。カルシウム-カルモジュリンキナーゼIIα(CaMKIIα)の産生量の増加は、シナプス活性に応答して起こり、学習に必要である。文脈的恐怖条件付けパラダイムで訓練されたPaip2a-/-マウスでは、訓練されていないマウスや野生型の訓練されたマウスに比べて、海馬に含まれるCaMKIIα量が増加していた。訓練されたPaip2a-/-マウスの脳内でCaMKIIα mRNAが重いポリソーム分画に移行されたため、このCaMKIIα量の増加は翻訳が亢進された結果であり、PABPとこのmRNAとの会合は、訓練されたPaip2a-/-マウスで最大であった。このように、活性に依存した翻訳阻害物質の分解が、学習と記憶に必要な翻訳の亢進に寄与している。
N. R. Gough, Translating Memories. Sci. Signal. 6, ec94 (2013).