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生理学
ミトコンドリア損傷による長寿
Physiology
Long Life Through Damaged Mitochondria
Sci. Signal., 5 November 2013
Vol. 6, Issue 300, p. ec266
[DOI: 10.1126/scisignal.2004879]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
E. Owusu-Ansah, W. Song, N. Perrimon, Muscle mitohormesis promotes longevity via systemic repression of insulin signaling. Cell 155, 699–712 (2013). [Online Journal]
軽い細胞損傷はその後のストレスに抵抗できる適応変化を生じさせうる。Owusu-Ansahらは、核への逆行性シグナル伝達を起動し、寿命の延長と関連する、ミトコンドリアの軽度機能障害に対するショウジョウバエの分子応答を調べた。幼虫において筋肉特異的な電子伝達系構成要素の高温誘導性の適度なノックダウン(TDN)を行うと、同じ温度にさらされた対照個体(TD)よりも小さな筋肉を持ち全体的に小さい成虫個体を生じたが、寿命は増加し、登坂能力が向上した。活性酸素種(ROS)を代謝する酵素の強制発現は、TDN個体の寿命や歩行行動の増強を解消した。TDN個体でノックダウンすると合成致死となる遺伝子のスクリーニングにより、ミトコンドリアのフォールディング異常ストレス応答(UPRmt)に関与するタンパク質をコードする遺伝子が同定され、この経路が適応応答に関与することを示唆した。成虫個体においてTDNによるミトコンドリアの軽度機能障害を誘導させると、同じ温度にさらされたTD成虫個体と比べて寿命が増加し、筋肉および筋ミトコンドリアの両方の恒常性が維持された。実際、TD成虫個体は、同じ温度にさらされた場合、かなりの筋肉変性を示し、UPRmtと関連した遺伝子の強制発現はこの高温誘導性の筋変性を妨げた。高温にさらされたTDN個体において、レドックス誘導性Jun N-末端キナーゼ(JNK)経路は、UPRmtと関連した遺伝子の増加と同時に活性化され、カタラーゼの強制発現あるいはD-Junの突然変異のいずれかによるROSシグナル伝達経路の阻害は、UPRmt関連遺伝子の発現および寿命延長を妨げた。幼虫時に温度シフトにさらされたTDN個体は全体的に小さいことから、筆者らは合成致死スクリーニングの結果から成長に影響する全身性因子を探索し、インスリン様成長因子結合タンパク質7(IGFBP7)のショウジョウバエ(Drosophila)ホモログであるImpL2を同定した。ImpL2の発現は、インスリンシグナル伝達抑制の下流マーカーとともに、TDN個体の胸、腹、頭で増加していた。ImpL2の欠損は、TDN個体の寿命延長を妨げ、その筋肉特異的過剰発現は寿命を延長するのに十分であった。TDNの筋肉は、オートファジーおよびリソソームマーカー量の増加を示した。電子顕微鏡解析により、マイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)の増加が確認された。TDN個体において、ImpL2の欠損はリソソームの増加を妨げ、オートファジーに関連した遺伝子の欠損は寿命の延長を妨げた。このように、ミトコンドリアの軽度機能障害は、寿命を延長させる適応応答を生じる自律的および非自律的経路を活性化する。
N. R. Gough, Long Life Through Damaged Mitochondria. Sci. Signal. 6, ec266 (2013).