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発生神経生物学
乳から記憶へ

Developmental Neurobiology
From Milk to Memory

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 January 2014
Vol. 7, Issue 307, p. ec1
[DOI: 10.1126/scisignal.2005044]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

B. Liu, B. Zupan, E. Laird, S. Klein, G. Gleason, M. Bozinoski, J. Gal Toth, M. Toth, Maternal hematopoietic TNF, via milk chemokines, programs hippocampal development and memory. Nat. Neurosci. 17, 97–105 (2014). [PubMed]

S. L. Parylak, W. Deng, F. H. Gage, Mother’s milk programs offspring’s cognition. Nat. Neurosci. 17, 8–9 (2014). [PubMed]

腫瘍壊死因子α(TNFα)は、脳のグリア細胞など、さまざまな種類の細胞で産生される炎症性サイトカインである。マウス脳におけるTNFαの役割の特徴づけを行うにあたり、Liuらは、母親のTNFα欠損が子孫の記憶と学習を増強させることを見出した(arylakらも参照)。TNFα欠損型の母親では、乳に含まれるさまざまなTNF誘導性ケモカインの濃度が低下していた。TNFαを部分的または完全に欠損した母親(Tnf+/–型またはTnf–/–型)に育てられた子マウス(野生型、Tnf+/–型、またはTnf–/–型)は、野生型の母親に育てられた子マウスに比べて、遠位海馬歯状回顆粒細胞の樹状突起がより長かった。さらに、Tnf+/–型またはTnf–/–型の母親に育てられた子マウスは空間記憶試験と文脈的恐怖条件付け学習試験の成績がより良好であり、これらの試験は海馬の活性を要する。母親マウスのグリア細胞または神経細胞ではなく造血細胞のTNFαをコンディショナルノックアウトすると、子マウスの学習能力の向上が誘発され、母親の免疫系の因子が子孫の中枢神経系の発生に影響しうることを示唆した。5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)による標識によって、生後14日のマウスでは背側歯状回の神経前駆細胞の増殖が特異的に亢進されているが、生後5日のマウスまたは成体マウスでは亢進されていないことが示された。この神経前駆細胞における一過性の増殖を選択的に遮断すると、TNFα欠損型の母親に育てられた子孫における記憶の増強が妨げられた。TNFα誘導性ケモカインをTnf–/–型の母親に育てられた子マウスに出生後1日から21日まで毎日投与すると海馬の細胞増殖と記憶能力が損なわれ、TNF阻害剤を野生型の母親に育てられた子マウスに注射するとTNFα欠損型の母親に育てられた場合の効果が表現型模写された。TNFα欠損型の母親に育てられた成体マウスの海馬の細胞では、コリン作動性経路のタンパク質(ニコチン受容体サブユニット、コリンアセチルトランスフェラーゼなど)をコードする遺伝子の発現が増加し、抑制性神経ペプチド(ガラニン、ソマトスタチンなど)をコードする遺伝子の発現が減少していた。この知見は、これらのマウスでは学習と記憶を促進するコリン作動性神経伝達に対する感受性がより高いかもしれないことを示唆している。TNFα欠損型の母親の子育て行動に変化はみられなかったことから、子孫の認知機能の向上に対する行動面の寄与は除外される。今回の知見は、母親の乳に含まれるタンパク質が免疫系だけでなく中枢神経系の発生と長期的機能にも影響することを示している。

L. K. Ferrarelli, From Milk to Memory. Sci. Signal. 7, ec1 (2014).

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2014年1月7日号

Editor's Choice

発生神経生物学
乳から記憶へ

Editorial Guides

2013:シグナル伝達の「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」

Research Article

糖尿病においてリガンド非依存性VEGFR2シグナル伝達経路は血管形成反応を制限する

TRAF6はプレセニリン1のポリユビキチン化および活性化を介してTGFβ I型受容体の腫瘍促進作用を刺激する

ユビキチン特異的プロテアーゼUSP15はTRIM25を脱ユビキチン化することによりRIG-I媒介抗ウイルスシグナル伝達を促進する

Perspectives

糖尿病におけるVEGFへの応答を阻害する

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