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宿主病原体相互作用
微生物がマラリアを阻む

Host-pathogen Interactions
Microbes Thwart Malaria

Editor's Choice

Sci. Signal., 16 December 2014
Vol. 7, Issue 356, p. ec346
DOI: 10.1126/scisignal.aaa4753

Jason D. Berndt

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

B. Yilmaz, S. Portugal, T. M. Tran, R. Gozzelino, S. Ramos, J. Gomes, A. Regalado, P. J. Cowan, A. J. F. d'Apice, A. S. Chong, O. K. Doumbo, B. Traore, P. D. Crompton, H. Silveira, M. P. Soares, Gut microbiota elicits a protective immune response against malaria transmission. Cell 159, 1277-1289 (2014). [PubMed]

要約 マラリア原虫(Plasmodium spp.)は、メスの蚊の唾液を介してヒトに伝染する。ただし、伝染に成功しても、病気に進行するのは一部のみである。宿主生物は、グリカンなどの病原体関連分子パターンを認識する。ところが、病原体と宿主生物の両方に存在するグリカンの場合、自己免疫反応を引き起こさずに免疫系の標的にすることはできない。進化の過程で、有効な宿主免疫系に有利な選択圧が働き、ヒトではGalα1-3Galβ1-4GlnAc-R(α-gal)など、ある特定のグリカンの生合成を妨げるような遺伝子多型が生じる。こうして、ヒトの場合、大腸菌(Escherichia coli)やその他の腸内細菌など、よくみられるα-gal陽性病原体とへの曝露によって、血液中を循環する高力価の抗α-gal抗体の産生が誘導される。培養細胞では、抗α-gal抗体は細菌、ウイルス、原虫などの多種多様なα-gal陽性病原菌に対して細胞毒性を示す。Yilmazらは、マラリアの原因になるPlasmodium sppの表面にα-galが存在することを見出した。α-gal欠損型マウスにE. coli O86:B7を接種すると、α-galに対する免疫グロブリン(Ig)M抗体の産生が誘導され、感染した蚊によるPlasmodiumの伝染からマウスを保護した。α-gal欠損型マウスでIgMの産生またはB細胞の発生に重要な遺伝子を除去すると、E. coli O86:B7を定着させてもPlasmodiumの伝染は妨げられなかった。α-gal欠損型マウスにα-galを予防接種すると、感染した蚊または皮内注射によるPlasmodiumの伝染は阻止されたが、静脈内注射による伝染は阻止されなかった。さらに、予防接種されたマウスの皮膚内では、対照マウスに比べて、Plasmodiumに特異的なリボソームRNAの存在量が増加しており、とくに皮膚内での免疫反応が重要であることを示唆していた。予防接種による感染予防は、予防接種の際にToll様受容体9(TLR9)を阻害することによって強化され、機能性B細胞、補体系の活性化、そしてIgGではなくIgM抗体の合成を必要とした。培養細胞では、抗α-gal抗体は、補体系の存在下でPlasmodiumに対して細胞毒性を示し、Plasmodiumの肝細胞への侵入を阻止した。マラリアが重要な健康リスクとなっているアフリカのマリでは、ヒトにおいて、α-galに対するIgG抗体とIgM抗体の存在量が年齢とともに増加した。さらに、マラリアの季節が始まる前のα-galに対するIgM抗体の存在量の平均は、その後にマラリアに罹患しなかった小児では、罹患した小児よりも多かった。このように、よくみられる病原体への曝露に由来する循環血液中の抗α-gal抗体がマラリアの原因になる寄生虫の伝染を制限している可能性があり、α-galの予防接種が有効なマラリア予防法となるかもしれない。

J. D. Berndt, Microbes Thwart Malaria. Sci. Signal. 7, ec346 (2014).

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2014年12月16日号

Editor's Choice

宿主病原体相互作用
微生物がマラリアを阻む

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