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発生
母体感染から胎児脳の発生異常に至るまで

DEVELOPMENT
From maternal infection to aberrant fetal brain development

Editor's Choice

Sci. Signal. 15 Mar 2016:
Vol. 9, Issue 419, pp. ec57
DOI: 10.1126/scisignal.aaf6684

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

J. Humann, B. Mann, G. Gao, P. Moresco, J. Ramahi, L. N. Loh, A. Farr, Y. Hu, K. Durick-Eder, S. A. Fillon, R. J. Smeyne, E. I. Tuomanen, Bacterial peptidoglycan transverses the placenta to induce fetal neuroproliferation and aberrant postnatal behavior. Cell Host Microbe 19, 388-399 (2016). [PubMed]

P. Yang, X. Li, C. Xu, R. L. Eckert, E. A. Reece, H. R. Zielke, F. Wang, Maternal hyperglycemia activates an ASK1-FoxO3a-Caspase 8 pathway that leads to embryonic neural tube defects. Sci. Signal. 6, ra74 (2013). [Abstract]

妊娠中に細菌に感染することや糖尿病などの代謝異常を有することは、胎児にとって危険となりうる。Humannらは、グラム陽性菌の細胞壁に存在する細菌性ペプチドグリカンが胎盤を通過して発生中の胎児脳でニューロンの増殖を刺激することを見出した。蛍光標識された細胞壁が脳内に蓄積する量は、血小板活性化因子受容体(PAFR)欠損胎仔マウスで減少した。乳児、小児、成人において、髄膜炎―すなわちグラム陽性菌による脳の細菌感染によって引き起こされる疾患―はニューロンの細胞死を引き起こすが、グラム陽性菌に感染したマウスや細胞壁を注射されたマウスでも、それと同じ反応が起きる。ところが、母体に細胞壁を注射した場合、胎生マウスではニューロンの密度が高まり、未成熟ニューロンの増殖が促進される。このような反応は、PAFR欠損マウスやToll様受容体TLR2欠損マウスではみられなかった。胎児における細胞壁の蓄積量の分析と培養神経前駆細胞の細胞壁に対する反応の分析から、細胞壁の胎児への蓄積にはPAFRが必要であり、増殖反応にはPAFRとTLR2の両方が関与していることが示唆された。妊娠マウスに細胞壁を注射すると、発生中の脳において神経転写因子FoxG1(フォークヘッド転写因子ファミリーに属する転写因子)の存在量が増加し、この反応はPAFRとTLR2に依存した。感染した妊娠マウスに対して、細胞壁の放出を引き起こす抗生物質アンピシリンを投与すると、胎生マウスの脳内でニューロン密度の増大が誘導されたが、細菌のタンパク質合成を阻害する抗生物質クリンダマイシンを投与しても、そのような反応はみられなかった。抗生物質で処理した肺炎球菌を培養神経前駆細胞に添加した場合も結果は同様で、アンピシリンで処理した細菌を添加した場合にのみ増殖が誘導された。胚齢10日または15日の時点で細胞壁を注射された母体の仔として生まれたマウスの分析では、胚齢10日の時点で曝露された仔マウスのみに記憶障害および認知障害が認められることが示された。これらのデータは、PAFRとTLR2がニューロンの増殖において重要な役割を担うことを示しており、妊娠女性に対する抗生物質治療では、その抗生物質による細菌感染の制御機構によって引き起こされる可能性のある毒性作用について評価される必要があることを示唆している。

Science Signalingで発表された過去の研究では、母体の高血糖に起因する神経管異常に関して、フォークヘッド転写因子ファミリーの別の転写因子FoxO3aが関与する別の経路が同定された。この場合の反応は、異常な増殖ではなくアポトーシスであり、母体の高血糖が発生中の神経管におけるアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)の活性化を誘導することによって開始される。Yangらは、妊娠マウスの高血糖が発生中の胚に及ぼす影響を研究することによって、ASK1の活性が発生中の神経管で高まっており、それがFoxO3aの活性を刺激し、アポトーシス促進アダプタータンパク質TRADDをコードする遺伝子の発現を亢進させ、結果的にカスパーゼ8を活性化させて神経細胞のアポトーシスを促進することを見出した。この経路はヒトでも重要であり、神経管異常を呈する神経組織で、この経路の構成要素の発現亢進や活性化が検出されている。このように、発生中の胎児において、一方は異常増殖で、他方はアポトーシスだが、いずれの場合も同じファミリーに属する転写因子の関与によって神経異常を来す可能性がある。

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2016年3月15日号

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母体感染から胎児脳の発生異常に至るまで

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