- ホーム
- 神経科学 IGF-1による神経機能の調節
神経科学
IGF-1による神経機能の調節
NEUROSCIENCE
IGF-1 modulates neuronal function
Sci. Signal. 22 Mar 2016:
Vol. 9, Issue 420, pp. ec64
DOI: 10.1126/scisignal.aaf7074
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. R. Mardinly, I. Spiegel, A. Patrizi, E. Centofante, J. E. Bazinet, C. P. Tzeng, C. Mandel-Brehm, D. A. Harmin, H. Adesnik, M. Fagiolini, M. E. Greenberg, Sensory experience regulates cortical inhibition by inducing IGF1 in VIP neurons. Nature 531, 371-375 (2016). [PubMed]
Y. Zhang, W. Qin, Z. Qian, X. Liu, H. Wang, S. Gong, Y.-G. Sun, T. P. Snutch, X. Jiang, J. Tao, Peripheral pain is enhanced by insulin-like growth factor 1 through a G protein-mediated stimulation of T-type calcium channels. Sci. Signal. 7, ra94 (2014). [Abstract]
感覚経験は、神経回路内のニューロン間の接続の強度、数または種類を変えることで回路を変化させる。Mardinlyらは、マウス視覚皮質の血管作動性小腸ペプチド(VIP)‐陽性ニューロンにおける遺伝子発現の変化を解析した。光曝露後のVIP陽性ニューロンに多く含まれる転写産物の1つは、インスリン様増殖因子1(IGF-1)をコードするものであった。これらのニューロンにおいてIgf1を特異的にノックアウトしても、皮質の肉眼的形態またはニューロンのサイズに影響はみられなかったが、電気生理学的実験から、これらのニューロンでは抑制性シナプス入力が低下していることが示された。VIP陽性ニューロンにおいてIgf1をノックアウトすると、これらのニューロンに対する抑制性入力が細胞自律的に低下したが、皮質の他種のニューロンに対する抑制性入力には影響しなかった。VIP陽性ニューロンで発現しているIgf1のアイソフォームにはヘパリン結合ドメインが含まれ、これが分泌タンパク質の拡散を低下させ、それにより作動範囲を制限していることが考えられた。VIP陽性ニューロンにおけるIgf1の過剰発現は、これらのニューロンに対する抑制性シナプス入力を亢進した。Igf1-ノックアウトおよびIgf1-過剰発現VIP-陽性ニューロンを用いた電気生理学的実験から、IGF-1がシナプス前ニューロンに作用して、VIP陽性ニューロンに対する抑制性シナプスの数または強度を増大させることが明らかにされた。VIP陽性ニューロンのIgf1がノックダウンされたマウスは、対照マウスに比べて視力が向上していた。しかし、マウスから光を遮断したとき、この視力の向上は消失した。このように、VIP陽性ニューロンにより産生されたIGF-1は、感覚経験に依存して視覚回路を変化させる。IGF-1は末梢ニューロンの感受性も変化させる。以前本誌に発表された研究において、Zhangらは、IGF-1を介したシグナル伝達が電位依存性T型Ca2+(CaV3)チャネルの活性化を促進することで、有痛性刺激に対する末梢ニューロンの感受性を亢進し、これらのニューロンの興奮性を増強することを見いだした。これらの研究から、IGF-1は単に神経発生や神経代謝を調節しているのみでなく、興奮性およびシナプス結合を調節することで神経機能に影響していることが明らかとなった。