WNTシグナル伝達の2面性

Two faces of WNT signaling

Editor's Choice

Sci. Signal. 19 Apr 2016:
Vol. 9, Issue 424, pp. ec89
DOI: 10.1126/scisignal.aaf8916

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

T. N. Phoenix, D. M. Patmore, S. Boop, N. Boulos, M. O. Jacus, Y. T. Patel, M. F. Roussel, D. Finkelstein, L. Goumnerova, S. Perreault, E. Wadhwa, Y.-J. Cho, C. F. Stewart, R. J. Gilbertson, Medulloblastoma genotype dictates blood brain barrier phenotype. Cancer Cell 29, 508-522 (2016). [PubMed]

A. Kaur, M. R. Webster, K. Marchbank, R. Behera, A. Ndoye, C. H. Kugel III, V. M. Dang, J. Appleton, M. P. O'Connell, P. Cheng, A. A. Valiga, R. Morissette, N. B. McDonnell, L. Ferrucci, A. V. Kossenkov, K. Meeth, H.-Y. Tang, X. Yin, W. H. Wood III, E. Lehrmann, K. G. Becker, K. T. Flaherty, D. T. Frederick, J. A. Wargo, Z. A. Cooper, M. T. Tetzlaff, C. Hudgens, K. M. Aird, R. Zhang, X. Xu, Q. Liu, E. Bartlett, G. Karakousis, Z. Eroglu, R. S. Lo, M. Chan, A. M. Menzies, G. V. Long, D. B. Johnson, J. Sosman, B. Schilling, D. Schadendorf, D. W. Speicher, M. Bosenberg, A. Ribas, A. T. Weeraratna, sFRP2 in the aged microenvironment drives melanoma metastasis and therapy resistance. Nature 532, 250-254 (2016). [PubMed]

要約 本誌今週号の一対の論文は、天然のWNT/β-カテニン経路阻害因子の内因的産生が、小児がんである髄芽腫と、高齢者に最も多くみられるメラノーマに対して反対の作用をもつことを明らかにしている。髄芽腫は、その変異と脳内の原発部位に基づきサブタイプに分類される脳のがんである。ソニック・ヘッジホッグ(SHH)経路を活性化する変異を伴う場合は最も侵襲性が高く、化学療法に反応性が低く、多くが死亡に至る傾向がある。一方でβ-カテニンの活性化突然変異を有する場合は治癒可能な傾向がある。Phoenixらは、血液脳関門の通過性の違いが原因であることを明らかにした。WNT型の髄芽腫は、腫瘍関連内皮細胞における傍分泌抑制性シグナルとして機能しバリア機能を乱す、WNT阻害因子であるWIF1およびDKK1を分泌していた。一方、SHH型の髄芽腫ではほとんどの細胞が検出可能なβ-カテニン活性を持たず、関連する内皮細胞のほとんどには活発なWNT/β-カテニンのシグナル伝達がみられ、機能性のバリアを形成していた。このような異なる特性が末梢に送達された化学療法薬の通過性に影響し、したがって、培養系では両方のがん種が薬物により細胞死に至るものの、マウス脳内に移植されたときはWNT型の髄芽腫のみが影響された。WNT7Aを産生するWNT型髄芽腫細胞の注入は、内皮細胞のバリア機能を安定化し、これらの腫瘍に化学療法に対する耐性を与えた。このように、WNT阻害因子と化学療法の併用またはWNT阻害因子の前投与により腫瘍への薬物送達を改善することが、高侵襲性の髄芽腫の治療に有益である可能性がある。

2報目ではKaurらが、皮膚線維芽細胞の老化がメラノーマの進展にどのように影響するかを検討し、老化した線維芽細胞はWNTアンタゴニストである分泌型frizzled関連タンパク質2(sFRP2)を産生することを報告した。メラノーマでは、β-カテニン活性が腫瘍細胞の増殖を促進するが、その侵襲性は抑制する。転移が死亡の原因であると考えると、増殖性だが非侵襲的な状態に細胞を維持することが有益と考えられる。幼若または老化マウスに注入されたメラノーマ細胞、および高齢(55歳超)または若齢(35歳未満)のヒトドナーから採取した線維芽細胞を用いて皮膚再建した器官培養系で培養されたメラノーマ細胞は、幼若条件下では増殖が亢進し、老化条件下では侵襲性(培養系)または転移が亢進した(マウス系)。sFRP2を含有する老化線維芽細胞の培養上清、またはsFRP2を添加した幼若線維芽細胞の培養上清は、培養系においてメラノーマ細胞の増殖を抑制し侵襲性を亢進させた。この作用は、幼若マウスにsFRP2を投与したときにメラノーママウスモデルで生じた転移性の亢進と、類似した作用であった。老化線維芽細胞の培養上清に曝露された、または老化マウスで増殖したメラノーマ細胞では、β-カテニン、転写因子MITFおよびAPE1(MITF標的遺伝子によりコードされる)の存在量が、幼若な条件下で増殖したメラノーマ細胞に比べて減少していた。APE1はDNA損傷の修復および活性酸素種(ROS)への応答に関与する多機能性タンパク質であるため、老化条件下で増殖したメラノーマ細胞がDNA損傷応答と関連した遺伝子サインを示したこと、さらに若年条件下で増殖した場合に比べ酸化ストレスのマーカー量が増大したことは、驚くべきことではない。ROSの増大並びにβ-カテニンとMITFの減少は、メラノーマの主要な治療戦略であるBRAF阻害薬への耐性と関連していることから、以上の結果は特に興味深い。H2O2に曝露された幼若線維芽細胞からの培養上清を用いてメラノーマ細胞を処理したとき、BRAF阻害薬であるベムラフェニブに対する耐性が生じた。一方で、抗酸化物質であるNACに曝露された老化線維芽細胞からの培養上清を用いてメラノーマ細胞を処理した際は、ベムラフェニブを添加せずとも細胞死が引き起こされた。以上のデータは、加齢に伴うsFRP2の増加はWNTシグナル伝達を抑制し、高いROSに対して細胞を適応させることを示唆している。このように抗酸化療法は、多量のsFRP2を示す一定以上の年齢の患者のメラノーマ治療に特に有益である可能性がある。

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