特集:脆弱X症候群

Special issue: Fragile X syndrome

Editor's Choice

Sci. SigSci. 07 Nov 2017:
Vol. 10, Issue 504, eaar3825
DOI: 10.1126/scisignal.aar3825

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

A. Pyronneau, Q. He, J.-Y. Hwang, M. Porch, A. Contractor, R. S. Zukin, Aberrant Rac1-cofilin signaling mediates defects in dendritic spines, synaptic function, and sensory perception in fragile X syndrome. Sci. Signal. 10,eaan0852 (2017).
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E. Santini, T. N. Huynh, F. Longo, S. Y. Koo, E. Mojica, L. D'Andrea, C. Bagni, E. Klann, Reducing eIF4E-eIF4G interactions restores the balance between protein synthesis and actin dynamics in fragile X syndrome model mice. Sci. Signal. 10, eaan0665 (2017).
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M. L. Dear, J. Shilts, K. Broadie, Neuronal activity drives FMRP- and HSPG-dependent matrix metalloproteinase function required for rapid synaptogenesis. Sci. Signal. 10, eaan3181 (2017).
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R. Kashima, P. L. Redmond, P. Ghatpande, S. Roy, T. B. Kornberg, T. Hanke, S. Knapp, G. Lagna, A. Hata,Hyperactive locomotion in a Drosophila model is a functional readout for the synaptic abnormalities underlying fragile X syndrome. Sci. Signal. 10, eaai8133 (2017).
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本誌今週号では、3報の論文により、脆弱X症候群の動物モデルにおいて神経機能障害の分子機構が明らかにされている。

要約

脆弱X症候群(FXS)は、RNA結合タンパク質FMRPをコードする遺伝子の三塩基反復配列伸長に起因する、遺伝性のX連鎖知的障害である。自閉症のよくある遺伝的原因であり、自閉症者と同様に、FXS患者は、軽度から重度の学習障害および神経機能障害のスペクトラムを呈する。現時点でFXSに対する治療法は存在しないが、研究者によってこの疾患の基礎にある分子機構が解明され始めている。本誌今週号に掲載された3報の論文と、Archives内のいくつかの論文により、機構に関する新たな知見と治療法開発の新たな機会が明らかになっている。

Pyrroneauらは、FXSのマウスモデルにおいて、Rac1-PAK-LIMK1シグナル伝達経路の阻害により、未熟なスパインの密度が低下し、シナプス機能と感覚処理が回復することを示した。FMRPの欠損によりGTPase Rac1の活性化が亢進し、Rac1はキナーゼPAKを活性化し、続いてキナーゼLIMK1を活性化した。LIMK1はコフィリンをリン酸化して不活性化し、樹状突起スパインの成熟に不可欠なアクチン脱重合のダイナミクスを障害した。Archives内のKashimaら(2016)も、FXS関連ニューロンにおいて、LIMK1-コフィリン経路が増強されることを見出していた(動物モデルと患者の両方で)。BMP II型受容体(BMPR2)の転写物はFMRPによって抑制されるが、FXSモデルにおけるLIMK1の活性化は、このBMPR2の存在量と活性の増加に起因した。動物モデルにおいて、LIMK1を阻害すると、未熟なスパインの密度が低下し、シナプス機能が回復した(Broihierも参照)。これらの結果は関連しているのか―BMPR2がFMRP欠損とRac1活性化をつないでいるのであろうか?―、それともむしろ、各機構が独立にLIMK1に合流するのかを検討することは興味深いであろう。

同じく今週号で、Santini らは、FXSのマウスモデルにおいて、eIF4Eを介するキャップ依存性タンパク質翻訳を抑制すると、スパインの発達とシナプス機能が回復することを示した。また、FMRP欠損時のRac1シグナル伝達の増加(およびその結果としてのアクチンダイナミクスの障害)を観察し、Rac1と足場タンパク質CYFIP1の相互作用の増加によって仲介されることを見出した。CYFIP1はFMRP複合体とRac1複合体のあいだを往復する。FMRPが存在するときには、CYFIP1の占有によりRac1-コフィリンシグナル伝達が抑制され、FMRPが翻訳開始因子eIF4Eを隔離することにより、アクチンダイナミクスが促進されるとともにタンパク質合成が抑制される。FXSにおいてはタンパク質合成が異常に亢進している。eIF4Eとパートナータンパク質であるeIF4Gの相互作用を阻害する化合物が、タンパク質合成を抑制するとともにCYFIP1-Rac1間相互作用を低下させ、アクチンダイナミクスとシナプス機能を回復させた。しかし、タンパク質合成を阻害する戦略の策定には、適正な用量―またはおそらくはタイミング―効果を見出すようにある程度の注意が必要と考えられる。Archives内のTudorらは、とくに睡眠中の海馬におけるタンパク質合成が、記憶形成、固定、学習に不可欠であることを示した。タンパク質合成のそのような機構は、キナーゼ複合体mTORC1が、阻害物質4EBP2の隔離によりeIF4Eの活性を上昇させることによってもたらされた。したがって、多くの細胞シグナル伝達経路と同様に、適正なバランスを見出すことが、適切な細胞機能を得るための鍵となる。

最後に、Dearらは、ハエモデルを用いて、FXSにおいてマトリックスメタロプロテアーゼの基礎分泌が増加する原因を調べた。ショウジョウバエ(Drosophila )Mmp1の存在量はニューロンで選択的に増加し、グリピカンDlp1も同様であった。Dlp1は、タンパク質間の直接相互作用を介してMmp1を細胞表面に動員し、その分泌を促進した。Dlp1およびMmp1の基礎分泌増加により、ハエにおいて活動によって誘導されるシナプス形成が妨げられた。これに関連したヒトMMPおよびグリピカンのあいだの機構はまだ検討されていないが、MMPの存在量を低下させるとシナプス機能が回復する可能性があり、これは、細胞表面グリピカンを標的にすることによって達成されうることが、研究によって示唆されている。これらの研究を合わせると、かなりの数の検討すべき新たな治療標的候補が得られる。ハエ幼虫の自発運動が神経学的なFXS表現型の信頼度の高い読み出し情報であることを示したKashimaら(2017)により開発されたハイスループットのin vivo FXS薬物スクリーニングが、この取組みに向けてとくに有用である可能性がある。

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2017年11月7日号

Editor's Choice

特集:脆弱X症候群

Research Article

Rac1-コフィリンシグナル伝達異常が、脆弱X症候群における樹状突起スパイン、シナプス機能、感覚認知の異常を媒介する

脆弱X症候群モデルマウスにおけるeIF4E-eIF4Gの相互作用の抑制はタンパク質合成とアクチン動態のバランスを回復させる

神経活動は迅速なシナプス形成に必要なFMRPおよびHSPG依存的なマトリックスメタロプロテイナーゼ機能を促進する

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