CRISPR、がん、そしてp53

CRISPR, cancer, and p53

Editor's Choice

Sci. Signal. 17 Jul 2018:
Vol. 11, Issue 539, eaau7344
DOI: 10.1126/scisignal.aau7344

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

E. Haapaniemi, S. Botla, J. Persson, B. Schmierer, J. Taipale, CRISPR-Cas9 genome editing induces a p53-mediated DNA damage response. Nat. Med. 24, 927-930 (2018).
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CRISPR-Cas9によるゲノム編集は、がん細胞に共通した表現型である機能的なp53タンパク質の欠損細胞において、最も効率的に行われる。

要約

CRISPR-Cas9技術は、疾患の研究と治療の両方のために遺伝子編集を進歩させる可能性があることから、これまでに幅広い人気を獲得してきた。ただし、ヒトを対象とした治験が開始されたばかりであるように、この技術とがんのリスクを関連付けた報告が発表されてきている。そして今回Nature Medicineに発表された2報の研究が、その理由を明らかにしている。例えば変異遺伝子の置換のためには、CRISPR-Cas9が変異遺伝子を標的として切断し、DNA鎖切断を引き起こし、その後に合成ドナーテンプレートDNAとの組換えを通して修復される。しかし細胞には、この種のDNA損傷に速やかに応答する内在性の機序が備わっており、この機序の中心が転写因子p53である。HaapaniemiらおよびIhryら(Urnovによる論文紹介記事参照)は、p53が標的細胞において、Cas9を介した遺伝子編集の効率に拮抗することを明らかにした。CRISPR-Cas9による編集は、p53欠損細胞株、ならびに不死化ヒト網膜色素上皮(hRPE)細胞およびヒト多能性幹細胞(hPSC)といった部分集団において最も効率的に行われ、p53の欠損または抑制は、ゲノム編集された生存細胞数を増加させた。したがってこの技術はp53欠損細胞向きである。つまり、編集される細胞は、突然変異原性に対して脆弱であり、さもなければ腫瘍に至る可能性があるp53拮抗シグナル伝達経路を獲得しやすい細胞である。本誌ArchivesにおいてStewart-OrnsteinおよびLahavは、p53活性が動的であり、キナーゼATMにより制御されることを明らかにしている。CRISPR-Cas9がp53活性の低下を利用するために戦略的な制限時間があるのか、またはATMを標的とする可逆的阻害薬と組み合わせることでp53欠損が一時的にのみ誘導されるのかは興味深い問題である。まとめるとこれらの研究は、CRISPR-Cas9技術の手順および応用の両方に様々な考察を与えるものだが、興味深い機会でもあるだろう。p53をコードする遺伝子は多数のがん種において変異しており、p53機能の回復はがん治療における(今までのところ捉えがたい)目標である。しかしTrends in Biotechnologyに発表された意見記事においてChiraらは、細胞でp53を回復させるCRISPR-Cas9遺伝子編集技術の使用を論証している。この技術は本来のp53欠損に頼るものであるため、現実的であると考えられる。

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2018年7月17日号

Editor's Choice

CRISPR、がん、そしてp53

Research Article

PTPN11変異白血病におけるTNK2阻害の合成致死性

μオピオイド受容体の急速な脱感作におけるGRKおよびアレスチンとの持続的な相互作用には多部位のリン酸化が必要である

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