白血病の補充療法

Supplementing leukemia therapy

Editor's Choice

Sci. Signal. 31 Jul 2018:
Vol. 11, Issue 541, eaau9227
DOI: 10.1126/scisignal.aau9227

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

N. Kanarek, H. R. Keys, J. R. Cantor, C. A. Lewis, S. H. Chan, T. Kunchok, M. Abu-Remaileh, E. Freinkman, L. D.Schweitzer, D. M. Sabatini, Histidine catabolism is a major determinant of methotrexate sensitivity. Nature 559,632-636 (2018).
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C. Frezza, Histidine metabolism boosts cancer therapy. Nature 559, 484-485 (2018).
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マウスにおいて食餌のヒスチジン含有量を増やすと白血病異種移植片のメトトレキサート感受性が高まる。

要約

メトトレキサートは、ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸(THF)への転換を触媒するジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の活性を阻害する。THFは酵素補因子として働く葉酸の活性型であり、DNA合成と細胞増殖に関与する酵素に必要とされることから、メトトレキサートはある特定の種類のがんの治療に使用される。しかし、メトトレキサートは健康な細胞のTHF量まで減少させることから、毒性を理由に使用が中止されることも多い。Kanarekらは、CRISPR-Cas9を使用し、メトトレキサート感受性を低下させる因子を求めて造血細胞由来のがん細胞株をスクリーニングした。THF依存性のヒスチジン分解酵素FTCDをコードする遺伝子の発現を抑制すると、がん細胞のメトトレキサート感受性が低下した。ヒスチジン分解経路の他の酵素をコードする遺伝子を標的にしても同様の結果が得られた。これらの知見から、ヒスチジン分解を阻害すると、細胞内のTHFが温存され、それによってメトトレキサートに対する感受性が低下することが示唆された。さまざまな細胞株のRNA配列を解析したところ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ(HAL)をコードする遺伝子の発現量がもっとも多い細胞株で、メトトレキサート感受性がもっとも高かった。HALはヒスチジン分解経路においてFTCDの上流で機能する酵素である。メトトレキサートは、急性リンパ性白血病(ALL)の小児患者の治療によく使用される。著者らは、ALL細胞のHAL発現量がもっとも多い患者は、HAL発現量がもっとも少ない患者に比べて生存率が高いことを明らかにした。また、腫瘍を異種移植したマウスを低用量メトトレキサートで処置し、かつ、ヒスチジン含有量を増やした食餌を与えたところ、低用量メトトレキサートによる処置のみのマウスに比べて、腫瘍サイズが小さくなり、THF量が減少した。まとめると、これらのデータは、食餌によるヒスチジン補充によって細胞内でのヒスチジン異化反応が促進され、それによって利用可能なTHFの量が減少し、細胞のメトトレキサート感受性が高まることを示唆している。Frezzaがコメンタリーで考察しているとおり、これらの知見は、患者におけるメトトレキサートの抗腫瘍作用がヒスチジン補充によって促進されるかどうかを決定するために臨床試験を実施すべきであることを示唆するとともに、慢性自己免疫疾患の治療のためにメトトレキサートを服用している患者にとっても興味深い内容である。

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2018年7月31日号

Editor's Choice

白血病の補充療法

Research Article

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