• ホーム
  • 新たなつながり:バイアスを利用する

新たなつながり:バイアスを利用する

New connections: Taking advantage of bias

Editor's Choice

Sci. Signal. 06 Nov 2018:
Vol. 11, Issue 555, eaav9344
DOI: 10.1126/scisignal.aav9344

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

J. S. Smith, L. T. Nicholson, J. Suwanpradid, R. A. Glenn, N. M. Knape, P. Alagesan, J. N. Gundry, T. S.Wehrman, A. R. Atwater, M. D. Gunn, A. S. MacLeod, S. Rajagopal, Biased agonists of the chemokine receptor CXCR3 differentially control chemotaxis and inflammation. Sci. Signal. 11, eaaq1075 (2018).
Abstract/FREE Full Text  Google Scholar

E. Lorenzen, E. Ceraudo, Y. A. Berchiche, C. A. Rico, A. Fürstenberg, T. P. Sakmar, T. Huber, G protein subtype-specific signaling bias in a series of CCR5 chemokine analogs. Sci. Signal. 11, eaao6152(2018)
Abstract/FREE Full Text  Google Scholar

B. Hitchinson, J. M. Eby, X. Gao, F. Guite-Vinet, J. J. Ziarek, H. Abdelkarim, Y. Lee, Y. Okamoto, S. Shikano,M. Majetschak, N. Heveker, B. F. Volkman, N. I. Tarasova, V. Gaponenko, Biased antagonism of CXCR4 avoids antagonist tolerance. Sci. Signal. 11, eaat2214 (2018).
Abstract/FREE Full Text  Google Scholar

特異的なシグナル伝達経路を標的とする、バイアス型ケモカイン受容体アゴニストおよびアンタゴニストが、治療効果をもたらす可能性がある。

要約

Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、Gタンパク質依存性経路またはβ-アレスチン依存性経路のそれぞれが異なるリガンドに活性化されるような、いわゆるバイアスのあるアゴニズムを示す場合がある。活性化される経路の種類が重要な意味をもつ。たとえば、Gタンパク質を活性化するμ-オピオイド受容体リガンドは、疼痛緩和を仲介する一方、β-アレスチンを活性化するμ-オピオイド受容体リガンドは、呼吸抑制や依存症などの副作用を引き起こす。そのため、一つの経路を特異的に標的とする、望ましい結果に応じた治療法の開発に、大きな関心が寄せられている。ケモカイン受容体はGPCRのサブファミリーであり、ケモカインと呼ばれるそれらのペプチドリガンドは、感染および炎症の部位に免疫細胞を誘引する。Science Signaling今週号では、Smithらが、ケモカイン受容体CXCR3によって仲介されるバイアス型シグナル伝達を検討した。著者らは、低分子受容体アゴニストを用い、接触過敏症のマウスモデルにおいて、β-アレスチンにバイアスのあるアゴニストの局所投与により炎症が悪化するが、Gタンパク質にバイアスのあるアゴニストではそのような悪化は生じないことを見出した。β-アレスチンバイアスアゴニストは、Gタンパク質バイアスアゴニストよりも強力にT細胞遊走を刺激し、キナーゼAktを活性化することにより、炎症部位への細胞の動員を増強した。

Science Signaling Archivesで報告されているように、Lorenzenらは、2つの内因性リガンドRANTESおよびMIP-1αといくつかのRANTESアナログに応答した、ケモカイン受容体とHIV-1共受容体CCR5によるシグナル伝達の研究において、別の種類のシグナル伝達バイアスの証拠を見出した。CCR5は、Gi/o ファミリーGタンパク質を刺激することによって、セカンドメッセンジャーcAMPの生成を阻害することができる一方、Gq/11ファミリーGタンパク質を介してCa2+シグナル伝達を誘導し、炎症を引き起こす。理想的な治療法は、CCR5の内部移行を刺激して、HIV-1のCCR5との結合を阻害するだけでなく、炎症性シグナル伝達も阻害することであると考えられる。RANTESアナログが、2種類の異なるGタンパク質タイプを異なる形で活性化すること、また、CCR5を優先的に活性化し、Gi/o を介してシグナルを伝達させる化合物が、炎症を引き起こすことなく、HIV-1感染を阻止する可能性があることが見出された。

CXCR4アンタゴニストAMD3100は、骨髄における白血病細胞の蓄積を防止することによって、化学療法の有効性を高める。しかし、細胞がAMD3100に対して耐性となる場合があり、そうするとCXCR4が細胞表面上に蓄積し、細胞が化学療法ではアクセスしにくい骨髄にとどまるようになる。Science Signaling ArchivesにおいてHitchinson らが示したところによれば、CXCR4に由来するペプチドは、β-アレスチンを介する受容体内部移行に対するバイアスアンタゴニストとしてではなく、Gタンパク質シグナル伝達にバイアスされたアンタゴニストとして作用することによって、耐性が生じるのを阻止した。さらなる実験によって、非ペプチド低分子阻害剤も耐性の発生を阻止することが示され、バイアス型GPCRアンタゴニストは、バイアスのないアンタゴニストに耐性を生じる患者に対する治療法として使用できる可能性が示唆された。総合すると、これらの研究は、バイアスのあるアゴニストまたはアンタゴニストの選択的使用により、ケモカイン受容体シグナル伝達を微調整し、特異的な生理学的応答を制御することができ、治療効果が得られる可能性があることを示している。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2018年11月6日号

Editor's Choice

新たなつながり:バイアスを利用する

Research Article

哺乳類の色素沈着はcAMPに依存してメラノソームのpHを調節する特有の機構によって制御される

ケモカイン受容体CXCR3のバイアスアゴニストは走化性と炎症を差次的に制御する

プロテインキナーゼのアロステリック調節の遺伝子操作

最新のEditor's Choice記事

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける

2024年3月19日号

痒みを分極化する

2024年3月12日号

抗体の脂肪への蓄積による老化