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コウモリのシグナルスイッチを切る

Switching off the bat signal

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
30 May 2023 Vol 16, Issue 787
[DOI: 10.1126/scisignal.adi8744]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

M. Ahn, V. C.-W. Chen, P. Rozario, W. L. Ng, P. S. Kong, W. R. Sia, A. E. Z. Kang, Q. Su, L. H. Nguyen, F. Zhu, W. O. Y. Chan, C. W. Tan, W. S. Cheong, Y. Y. Hey, R. Foo, F. Guo, Y. T. Lim, X. Li, W. N. Chia, R. M. Sobota, N. Y. Fu, A. T. Irving, L.-F. Wang, Bat ASC2 suppresses inflammasomes and ameliorates inflammatory diseases. Cell 186, 2144-2159.e22 (2023).

コウモリのASC2は、ASC斑の形成を抑制することでインフラマソームの活性化を阻害する。

病変体または危険関連分子パターンの認識は、IL-1βなどの炎症促進性サイトカインを産生するインフラマソームと呼ばれる多タンパク質複合体の会合を誘発し、ピロトーシスと呼ばれる1種の炎症細胞死をもたらす。インフラマソームが会合する際、刺激のない条件下ではサイトゾルに散在した分布をしているアダプタータンパク質ASCが集合し、斑を形成する。Ahnらは、コウモリがなぜ感染の徴候を示すことなくウイルスを保有できるのかを研究する中で、コウモリのASC2がインフラマソーム活性化の強力な阻害因子であることを見いだした。複数種のコウモリにおいて単球/マクロファージ中のASC2 mRNAはASC mRNAと比べて高発現していた。ヒトASC2とコウモリのASC2のmRNAを外因性に同等量過剰発現させたとき、タンパク質レベルでの存在量は、ヒトASC2と比べてコウモリのASC2の方が高かった。異種遺伝子発現系またはTHP-1細胞において、コウモリのASC2は種々のインフラマソーム活性化因子に応答してヒトASCと共局在し、ASC斑形成を攪乱するフィラメントを形成し、IL-1β分泌およびピロトーシス性細胞死を減弱させた。一方でヒトASC2はヒトASCと共局在せず、ASC斑の形成、IL-1β分泌またはピロトーシス性細胞死を阻害しなかった。SARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメインとこのドメインを認識するモノクローナル抗体から形成された免疫複合体で刺激したTHP-1細胞およびヒト単球において、HIV-1のTAT配列(細胞への浸透を可能にするため)およびコウモリのASC2から構成された融合タンパク質は、インフラマソーム活性化を抑制した。マウスの骨髄由来マクロファージにコウモリASC2を特異的に誘導発現させたとき、ASC斑の形成、ピロトーシス性細胞死およびIL-1β分泌は低下した。これらのマウスは、MSU結晶またはASC斑により誘導される無菌性腹膜炎から保護された。さらにこれらのマウスは炎症レベルが低く、致死性のH1N1インフルエンザA型ウイルス感染によっても生存する可能性が高く、ジカウイルスまたはプテロパインオルソレオウイルス3(Pteropine orthoreovirus 3)を感染させたときのウイルス価が低かった。コウモリASC2の部位特異的変異導入試験から、インフラマソームの阻害に重要な4残基が確認され、これは種々のコウモリ種のASC2で保存されていた。これら4残基を置換したヒトASC2を異種性に発現させたとき、比較的高いタンパク質量で産生され、これらはインフラマソーム阻害能を獲得した。このようにコウモリのASC2はインフラマソームの活性化を阻害し、このことが、ウイルスのリザーバーとしてのコウモリの能力に寄与している可能性がある。

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